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ここはダンテの事務所らしい。前と様子が違うが、18年経てば当たり前か。まだ信じられない部分はあるものの、とりあえず頭をさっぱりさせたくてシャワーを借りた。バスタブにはお湯も張られている。肩まで浸かりながら、さっきダンテとモリソンさんから聞いたことを頭の中で整理する。

18年前、わたしにとっては昨日、依頼に向かったわたしは悪魔と戦った。そしてまんまと術中にはまったらしい。眠ってたというけれど、実際は時を止められていただけらしく、わたしの体は年もとっていなければ筋肉なんかも衰えてない。封印されたって方が正しいのかな。とにかく、そのまま悪趣味なコレクターに回収されて、屋敷に隠されてたそう。それを最近になってダンテが見つけてくれたんだって。
ダンテが見つけてくれなかったらわたし一生隠されたままだったのかな。そう考えるとちょっとぞっとする。18年て長いと思ったけど、下手したら100年とか、さらに長い時間封印されてた可能性もあったんだ。そう考えると知っている人が存命してる間に助けてもらえてほんとよかった。困惑はしてるけど。

にしても起きたら18年後か。いったい世界は今どうなっているのだろうか。わたし、ついていけるかなあ。

若干これからのことに不安を抱きつつ、これまた借りたシャツを着て部屋に戻ると、ダンテが一人、窓の外を眺めていた。

「だ、ダンテ」
「…ああ、さっぱりしたか」
「うん、ありがとう、ございます」
「…その言い方やめてくれねぇか」

むず痒い、そう笑うダンテにわたしも苦笑いする。確かに変な感じだ。

「モリソンさんは?」
「帰ったぜ。女房からの呼び出しだと」
「家族がいるんだね」
「娘もいる」
「そう、なんだ」

気さくで優しい人だ、結婚しててもそれは当然だろう。きっと暖かい家庭なんだろうな。
ふとダンテを見つめる。若い時からかなりモテていたけれど、今はまた違うタイプの立派な男性。しかもかなりいい男。18年経ってるんだし、ダンテこそ今どうなっているんだろう。結婚とか、しているのだろうか。だとしたらわたしなんだか悪いことしているな。

「おい、何考えてる」
「え…なにも」
「嘘つけ」

顔に書いてあるぜ。こっちに歩いてきたダンテが手を伸ばして、頬を撫でる。何故だか振り払う気になれなくて大人しくされるがままになっていると、ダンテがふっと笑った。

「言ったろ、18年探してたんだ。他の女に構う暇なんてねぇよ」
「何も言ってないってば…」

18年前のダンテを思い出す。かなり自堕落で気分屋だったなあ、夜街を歩けばいろんな女性に声かけられてたし。失礼だが本人の性格からしても一人と一生添い遂げるってことはあんまり考えてなさそう。他の女の人に後ろから刺されそうだし。
そうだ、もう一つ気になっていたことを聞いてみることにしよう。

「それより、あの。わたしの家なんだけど」
「ん?」
「服とか、いろいろ…必要だから。申し訳ないけど、この服だけ借りて、帰ってもいい?」
「帰る?」

…あ、あれ?なんか、声のトーンがさっきと違う。凄みを増した声に思わずぱっと顔を上げると、真顔でこちらを見下ろす男の顔。先ほどまでの雰囲気とは別のものを感じて、小さく息を飲んだ。
怒って、る?なんで?すっかりオーケーをもらえるものと思っていたわたしは面食らって何も言えなくなる。

「…日向のアパートメントはもうないぜ」
「え…えっ?」
「大家が亡くなったからな。解体されちまった」

呆然と立ちすくむ。そんなまさか。わたし家無しってこと?

「大事そうなもんは俺が預かってる」
「ほんと!?」
「写真とかはな。そこに入ってる」

ベッド横のサイドボードの引き出しを引くと、色あせた写真やらオルゴールやら。確かにわたしのものだ。よかった。

「服なんかは持ってきてねぇが…18年前のパンツ、履きたいか?」

ぐっと言葉に詰まる。確かに、わたしにとっては昨日でも実際それだけ時間が経っているんですよね。それにさすがに20年ものの下着は身に着けたくない。他の服も古臭くなっていることだろう。この時代の子から見たらダッサ!とか言われるのかなあ、流行はどんどん変わるから。ダサくなくても十八年間手入れしてない服はやっぱり着られないな。
じゃなくて、家だ家。服も大事だけど、家がないって。わたしこれからどうすればいいの。

「ここに住めばいいだろ」
「はあ?!」
「部屋は空いてる。ここ使っていいぜ」

起きてから急展開が多すぎる。ここに、事務所に住む?ダンテと一緒に?

「い、いい、住めない」
「問題あるのか」
「あるよ!」
「どんな?」
「そこまでお世話になるわけにはいかない」
「俺とお前の仲だろ」

どんな仲だ。さっきみたいに押し倒そうってんなら今度は容赦しないぞ。そう視線で伝えればダンテは手を挙げて首を振った。さっきのはジョークだろなんて言っているけど、やっていいことと悪いことがあるからね。よく覚えとけ。

「前から誘ってただろ。どうせ事務所に来るなら一緒に住もうぜってな」
「それはそうだけど、それこそ18年前の話でしょ」
「俺は今でも全く構わない」
「ダンテ」
「行くあてないだろ。家も金も」
「ぐうの音も出ない」

家もお金もないわたし。話し相手になってくれればいいとダンテは言ってくれるけど。

「…新しい家が見つかるまで、いい?」
「モチロンだ。ずっといればいい」

承服すればようやくダンテが笑顔になる。若干どこかで胸がざわつく、が、もういいや。
あーあ、昨日まではわたしがお姉さん役だったのになあ。すっかり立場逆転している。生意気だけど可愛いダンテの代わりに、余裕たっぷり大人のダンテ。彼に慣れるまでにもまだまだ時間がかかりそうだ。

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