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目がさめると、いつもの見慣れた風景。白い天井と、朝日の透けるカーテン。ただ頭のどこかがぼんやりとした感覚で、違和感を感じた。

「…ん?」

二、三度瞬きして体を起こす。カーテンを開けて朝日を直に浴びる、いつもはこれでスッキリ目覚めるのだけど、けれどやっぱり頭のどこかがぼんやり、靄がかかったような。おかしいな、昨日、何かしたっけ?首を傾げるものの心当たりはない。うーん、でもまあ、気分が悪いとかそういうことはないから、気のせい、かな?

頭を切り替えて、支度をしてオフィスへ向かう。家を出る前に杖が見当たらなくて必死に探した。アクシオだって杖がなければ使えない、いやあベッドの下は盲点だったな。できる範囲の家事は魔法は使わずに自分でやるから、ギリギリまで気づかなかったけど、なんでベッドの下なんかに。相当酔っていたのか。勝手にいなくならないでね、なんて杖に向かって八つ当たりもいいところな願いをかけていると、後ろから不意に声を掛けられた。

「おはよう、日向」
「ニュート」

振り返れば学生時代からの親友の姿。

「おはよう。週末はどうだった?」
「相変わらずだよ」
「動物のお世話ね。お疲れ様」
「日向こそ、昨日は大丈夫だった?」
「昨日…?」

昨日、ニュートと一緒だったっけ?

「やっと報告書が仕上がったから、飲みにいくって。あの様子だと記憶がなくなるまで飲むんじゃないかって心配だったんだ」
「ああ…ああ、うん、大丈夫」

そうか、思い出した。あの意地悪上司、必要以上の厳しさでケチをつけるもんだから、今回も報告書受理にかなり時間をかけてしまった。ようやく仕上げ、鬱憤を晴らす意味も込めていつものバーでたらふく飲んだのか。ニュートに心配されるほど。苦笑いしながら杖をホルダーに仕舞う。

「杖、どうかした?」
「ううん、ちょっと聞き分けなくて」
「聞き分け?」
「私のせいなんだけどね」

連れ立って歩く。背の高い彼が歩幅を合わせてくれているのに気付いて微笑んでしまった。
人と関わるより魔法動物と関わる方がいい、彼らは優しくて素直で、素晴らしい生き物だ。目をキラキラさせてそう語る彼こそ、素直で優しい人だと私は思っている。

「明日からミュンヘンに行くんだ」
「へえ、いいね。バームクーヘン買ってきてよ」
「忘れなければね」

そういって苦笑いする彼が、お土産を忘れたことは一度もない。なんだかんだ甘やかされてるなあと思う。
エレベーターホールの前で一緒に食べよう、紅茶淹れるからといえば約束だよと言い残してニュートは姿くらまししていった。わたしもオフィスへ向かうおう。と、ボタンを押そうとしてふと手が止まった。彼は何しにきたんだろう。

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