せっかくだったらグリフォンやヒッポグリフなんてどうだろう。でもこんなところで万が一人に見つかったら大変なことになるな。やっぱりここは無難な生き物にしておこう。頭の中で動物をイメージする。そっと目を閉じて心を落ち着けると、ふわりと体が縮む感覚。

「…にゃー」

うまくいったみたいだ。いつもよりずっと低い目線で、手足に直に草の感触。体はとても軽い。思った通り、焦茶の体毛に包まれた猫になれた。

さくさくと草を踏みながら進んでいく。歩いたり走ったり、時々飛び跳ねたり。聞こえる音や匂いも違って、人間とは異なる感覚が楽しい。
途中飛んでた蝶々がやけに気になったり、自生していたまたたびに頭がくらっと来たりしたけど…なんとか目的地にたどり着いた。


気持ちがいい。頭、顎、お腹。優しくて暖かい感触に撫でられているようで、ふにゃっと顔が緩む。…でも、誰?
はっと目を覚ます、と。

「にゃ…っ」
「…ああ、おはよう」

ハッフルパフのスキャマンダーだった。思わず飛び上がりそうになったが、何故だか体が動かない。動きたくない。同級生の男子の足の上に乗っけられて体を撫でられるなんてかなり恥ずかしい状況だけど、この人、なんでこんなに撫でるの上手いんだろう。いま私が猫だから?にしても確実に気持ちいいポイントついてきている。初猫体験だけどわかる、この人かなりテクニシャン。

「見慣れないね。どこから来たの?」
「にゃ…」

そう言いながらスキャマンダーはわたしの体を撫で回している、というより検分しているようだった。耳の裏から肉球までじっと見ている。そんなところまで見ないでほしいけど、猫の身ではなにも言えない。ただ引っ掻いたりするのも憚られて仕方なくされるがままにしておく。

「あまり汚れてないね。人にも慣れてる。誰かに飼われてる?」

今日初めて猫になったからなあ。野良猫よりは綺麗だろう。人間慣れてるだろうって、だって元は人間だもん。

改めてスキャマンダーを見上げる。優しいブルーの瞳。スキャマンダーってこんな顔、っていうか表情するんだ。いつも目立たないところにいるし、噂じゃ人間より動物と一緒にいるのが好きな人だって聞くし、話したことなんて勿論一度もなかったけど…。動物好きに悪い人はいないって言うしなあ。

匂いまで嗅がれて、あまつさえ食べられるんじゃないかと思って慌てて手からすり抜ける。

変な人はいるけど。


ヒッポグリフみたいな目をしてる…



君、血の呪いを…?

なんでも変身できるわけじゃないよ。ちゃんとイメージできる動物じゃなきゃ。うまくいかないことだって多いし。

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