「ガラルに来たことは?」
「いえ…一度も。ホウエンから出たこと自体少なくて」
遠くてカントーだと彼女は少し恥ずかしそうに笑う。ここホウエンも素晴らしい土地だと思うが、自然の雄大さならばガラルだって負けてはいない。是非一度ガラルに足を運んでほしいと思う。
「これでどうでしょう?」
「ああ!ありがとう、助かったぜ」
丁寧に繕われたシャツを受け取る。穴など跡形もない。見事な腕前だ。
「すみません、そういうものに疎くて」
「いや、気にしないでくれ。ただもし少しでも興味を持ってもらえたなら、是非ガラルのチャンピオンシップを観に来てほしい」
チャンピオンシップ、彼女はぽつりと呟いてこっちを向いた。
「チャンピオンシップに興味が?」
「ええと、ポケモンリーグのようなものでしょうか?」
「ああ、同じものだ。ガラルではポケモンリーグを興行と捉えている面もあってね」
「そうなんですね…私のお客様の中にも、ポケモンリーグに出場されている方がいるんです」
薄翠色の瞳が細められる。何かを思い出すような、懐かしむような視線だった。
「…もしかしてそれは、ホウエンリーグチャンピオンのことかな?」
ぱちっとその瞳が我に帰ったようにこっちを向いた。どうして、と驚いた顔に苦笑いする。その彼から聞いてやってきたと聞けば仰天するに違いない。
ただ、どうしてだかここで彼の名を出すのは憚られて、曖昧に笑ってみせた。
「ホウエンのチャンピオンは随分な石マニアだと聞くからな。この店を懇意にしていても不思議はないぜ」
不思議な人だと思った。
きゅい、と声がする。下を向けば複数のヤミラミ。
「うわっ!?」
「ヤミラミ達も避難してきたんだね」
いつの間に入ってきたのか。彼女は動揺することなくヤミラミの一匹を抱き上げる。きゅららと鳴き声を上げたヤミラミはごそごそと身動いで、いくつかの輝く石を取り出した。
「どうしてヤミラミが」
「石の洞窟にある宝石を持ってきてくれるんです。お店で使う石の欠片と交換条件で」
ありがとうと礼を言って渡したのは削られた石の欠片や石粉。商品にできないものを彼らに渡しているらしい。飛びついたヤミラミは嬉しそうにそれらを食べ始める。
「君はポケモンの気持ちが分かるのか」
「いえ、なんとなくですよ」
「ホウエンは大荒れの天気になることも珍しくないんですよ。ダンデさん、ホテルの場所はわかりますか?」
「ああ、大丈夫だ」
「傘をお貸ししますね。返してくださらなくて結構ですから、気をつけて」
戸を開けば途端に雨と風が舞い込んできた。それじゃあと手をあげて歩き出した瞬間、ダンデさん!と慌てた声がかかった。
「シティホテルは反対方向ですよ」
「そうだったか?すまない、ありがとう」
そう言って歩き出した矢先、また背後から声がかかった。
「そっちじゃないです!シティホテルだから、南に向かって」
…南に向かっているつもりなのだが。雨の中立ち往生している俺を見かねて、彼女が走り寄ってきた。
「ホテルまでお送りします」
「いや、しかし。この雨の中わざわざ案内してもらうわけには」
「ダンデさんこそ。この雨の中何時間もふらふらしていたら風邪を引きますよ」
何時間も辿り着けないのは確定なのか。
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