誰も望んでいないのに
どうか、彼女がいませんように。震える指先でチャイムを押す。数秒、響いて、それから無音。ふっと心が軽くなる気がした。肩の力も抜ける。よかったと心から思った。救われた。彼女に何かをすることなく、今日も帰ることができる。そう思って踵を返した瞬間だった。
かたん。
鋭敏に耳が音を拾う。体が固まる。
うそだ
チャイムを押して、物音がする。中に人がいるのなら当たり前だ。そしてその音は確実に、この扉に向かってきている。
ああ、どうして
かちゃ、と鍵の外れる音。伺うように顔を覗かせた愛しい人。
わずかに開かれた扉の隙間をこじ開けて中に踏み入ってしまえば、その後どうなるかなど想像に難くない。
苦しい?辛い?破裂しそうな心臓を抱えて、ぐちゃぐちゃな視界で見上げた先に、金色の瞳。何を考えているのかわからない。けど絶対に目を逸らそうとしない。ーーーこわい。生き物として、弱者として恐怖を感じる。喰われる、と。
ぶちぶちと信じられない音がした。途切れそうになる意識が引き戻されて、反射的に首を手で覆う。あるはずのものがない感覚に、さっと血の気が引いた。
「やめて、やめて」
後ろの男はなにも言わない。荒い呼吸が耳のすぐ後ろで聴こえて、首を隠す腕を掴まれた。引き剥がそうとして、それでも必死に抵抗すると、ふうとため息が落とされた。
女に、なる、から
ああ、俺の女にしてやるよ
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