ヴァニタスがフィリアを連れ去って、海岸にひとり残された。
あいつがもともと自分であったという事実、フィリアが攫われたこと、戦ったらχブレードが生まれゼアノートの思い通りになってしまうこと、χブレードが生まれたらいったい何が起こるのかわからないこと。たくさんの不安や疑問に押しつぶされてしまいそうだった。
ヴァニタスの言うとおりだ。χブレード誕生の条件を理解していても、いざ大切な人たちが襲われているところを見たら、放っておけるわけがない。ならばどうすればよいのか。マスター・エラクゥスの決断を思い出していた。
「フィリア、テラ、アクア──」
ポケットにしまっていたお守りを取り出した。緑のお守りは、あの夜、これをもらった時と変わらない。絆であり、つながりの証。見ているだけで勇気が湧いてくる感じがした。
「俺がすべてを終わらせるんだ」
たとえ、自分がどうなろうと。
キーブレードで異空の回廊を開き、鎧を纏う。目指すは決戦の地。あの荒野。
★ ★ ★
闇の中ではこころを食われる。弱く、未熟であるほどに早く溶ける。
腕に収まっている温もりを見た。願ったとおり強く育ってはきたものの、やはり不安が付き纏う。これからのことを、彼女は耐え切れるだろうか。壊れてしまわないだろうか。
このまま無防備な状態で連れてゆけば、闇から害を受けるかもしれない。分かってはいるものの、こうして彼女を抱きしめることができるのはこれが最初で最後かもしれないと思うと、なかなか未練が切れなかった。
苦悶の影を浮かべた寝顔をそっと撫でてみる。ふっくらとした頬から、指の間からこぼれ落ちる髪先まで。胸の奥底がぎゅうと締められて、もっと触れたい欲ばかりが生まれた。
「癒しよ」
闇の中で緑色の光がホタルのように輝き、消える。
「──眠れ」
続けて、フィリアの顔から苦痛が失せるのを見てからスリプルを。寝息が整うのを確認したあと、腕の鎧を作動させ、身を包ませた。
あともう少しで全ての望みが叶う。元通りになり、新しくなって──始まるのだ。