「……それで、それから帰るときには、手を繋ぐようになったってこと?」
「ああ」

 テラが目を閉じて頷く。当時は冷や汗を流したことも、今となっては笑って語れる思い出──というものらしい。ここに来る以前の思い出がない俺には、ちょっとだけ羨ましい。

「テラが手を繋ぐ理由は、フィリアをドジから守るためってこと?」
「フィリアが聞いたら怒りそうだな。本人の前では言うなよ?」
「わかってる。でも、今はさすがに転ばないんじゃないか?」

 当時は四歳ほどだったから仕方ないとしても、今ではさすがに転ぶ姿は滅多に見ない。

「それに、ケアルだって使えるし──」
「油断大敵っていうだろう」
「ふぅん? それじゃあ、今度から俺もフィリアと手を繋ごうっと」
「ヴェンはだめだ。これは俺の役目だからな」
「なんだよ、役目って?」

 むっとしながら訊ねると、テラの表情が変わる。

「フィリアに嫌がられるか、他に譲るべき相手が現れるまではそうしようって決めたんだ」
「え、譲る? 誰に?」
「……いつまでも変わらないものもあるが、同じままではいられないこともあるってことだよ」

 それきりテラは難しい顔で口を閉じた。
 俺たちはずっとこのままじゃいられないのか? テラがどんな意味で言ったのかわからないが、それはとても怖く、寂しく、切なく感じられた。
 変わらないものと変わってしまうもの。
 それなら、俺は。

「──変わらない」
「ヴェン?」
「フィリアを誰かに譲るなんて嫌だ。俺は変わらない。ずっとずっとフィリアを守るよ。テラも、アクアも、マスターだって」
「…………」

 テラはポカンとした顔になった後──プッと吹き出した。

「なっ、笑うなよ!」

 せっかく決心したことなのに!
 羞恥と怒りで顔を真っ赤にして怒鳴ると、テラが片手で俺の頭を軽く撫でてきた。

「すまん……だが、そういうところはまだまだ子どもだな。ヴェン」
「だから、子ども扱いするなってば!」

 俺は心地よいテラの手を、ムキになって振り払った。



 俺にもフィリアを守れるとテラに認めてもらうために強くなる。……はじめとあまり目的が変わってないようにも思えるけど、意気込みは更に増した。みんなで一緒にいることを守るためにも、俺はもっと強くなる。

「テラ、もう一回勝負!」
「ああ。いいぞ」

 とにもかくにも、まずはテラに勝つことから──だな! 





2012.7.9

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