城に戻ったあと、マスター・エラクゥスが文字通り、本当に光のような速さで山道を駆け抜けていってしまったので、俺がフィリアたちの元へ戻った頃には、すでに治療が終わっていた。
「フィリア、他に痛むところはないか?」
マスターが片方の手で頷くフィリアの前髪を持ち上げる。あれほど出血していた傷は嘘のように消えていた。
「良かった、跡にならなくて……」
胸を撫で下ろすアクアに、マスターが微笑む。
「怪我をした直後の、おまえたちの処置が良かったのだ。私がくるまでよく耐えたな、アクア──それに、テラもよくやった」
「あっ、テラ!」
さきほどの泣き顔はどこへやら、マスターに抱っこされて上機嫌のフィリアが俺に気づいて両手を振る。その元気そうな姿に俺は心の底からほっとして、目頭が熱くなった。
「フィリア。もう、だいじょうぶか?」
「うんっ。マスターがね、魔法で治してくれたの!」
無邪気に答えてから、ふと気づいたように、フィリアがマスターの頬を撫でる。
「マスターのお顔の怪我も、魔法で治せないの?」
「うむ……これはただの傷ではない故、な」
その時のマスターの目はどこか遠く、悲しく辛そうな様子だったので、俺はアクアと顔を見合わせ首を傾げた。
「フィリア、おまえにも魔法の素質がある。今ので、おまえもケアルが使えるようになったのだぞ?」
話を逸らすためか、マスターがフィリアに言った。フィリアは「ほんとー?」と目をきらきらさせる。
「テラやアクアみたいにがんばって練習すれば、マスターの傷、治せるようになれる?」
「これは古傷だ。跡はあるが、もう痛みはない。気持ちだけ受け取っておくぞ」
マスターが目を細めながらフィリアの髪を撫で、そして俺たちを見た。
「テラ、それにアクア。午後の修行では、おまえたちにもケアルを教えよう」
「はいっ」
倒す力も大切だが、守ることと癒すことも大切だと身にしみた。ケアルの練習、がんばろう。
「して──テラよ。昼食の献立はもう決まっているのか?」
決意を新たにしているところでマスターからいたずらっぽく訊ねられ、サッと現実に戻された気持ちになる。まだ、何も考えていない。
「俺、先に戻ります!」
三人に背を向けると、マスターの腕の中からフィリアの降りたがる声がした。
「テラー、わたしも手伝うー!」
「テラ、ストップ!」
ぎょっとしたアクアが俺を止める。俺は尻もちをつきそうになりながら停止した。
「あ、ああ。フィリア、俺は待ってるから、絶対に走るなよ!」