アグラバーに戻るなり出迎えてくれたのは、もちろんジャスミンではなく、ハートレス、ハートレス、ハートレス……。
バンディットの剣は狭い街中では避けにくい。服が損傷すればまともな抵抗ができなくなるため、ドナルドが風の魔法を纏う防御方法を教えてくれた。渦巻く魔法の風はしばし体の周囲に留まって、敵の刃や魔法を跳ね返し、接近する敵を切り裂く膜となって守ってくれる。うっかりすると服が際どくめくれてしまうのが難点だが、破れるよりマシだ。
アラジンもシャムシールに似た剣を手にハートレスと戦っていた。彼は戦士ではないらしいけれど、器用に立ち回ってハートレスを次々やっつけている。
「ひとまず僕の家へ行こう。もしかしたら、ジャスミンが戻ってきてるかもしれないし」
アラジンの案内で、ハートレスを倒しながら服を着替えたあの瓦礫とガラクタだらけの場所へ戻った。物置だと思ったのに、まさか彼の家だったとは。正直な感想は胸中に閉まっておこうと仲間たちと無言で頷きあう。
残念なことに、アラジンの家にジャスミンはいなかった。無事でいてくれればよいのだが。
「ジャスミン……」
ガックリうなだれてしまったアラジンへ、ソラが彼にジャスミンと出会った時の話をした。ジャスミンへ向けるジャファーの視線や、鍵穴を求めていた話。ジーニーもランプに戻らず、アラジンの隣で話を聞いていた。
「なるほど、ジャファーの狙いは、ジャスミンとその“鍵穴”とかいうやつか」
「“鍵穴”か……前にどこかでそんな話を聞いたような……」
「どこどこ? どこで?」
ジーニーがクモの巣だらけの天井を見上げながらの呟いていたが、ドナルドに問いただされると「う〜ん、数百年前にランプの中でだったような〜」とハッキリしない。
ソラがアラジンへ奮起する。
「アラジン! とにかくジャファーを止めないと大変なことになる!」
「わかった。僕もジャスミンを守りたい。一緒に行こう」
アラジンの瞳に勇気が宿り、顔つきが引き締まった。
こうして、ハートレスだらけのアグラバーでジャスミンを捜索することになった。
城門広場から大通りの間は探索済み。裏通りで別れてから時が経ちすぎているため、まだジャスミンとジャファーが裏通りにいる可能性は低いだろう。まだ行ったことのない王宮の周辺が怪しいとアラジンが予測した。
かくして、それは当たっていた。王宮前にたどり着くと、ジャファーに捕らえられているジャスミンを見つける。
「ジャスミン!」
みんなで彼女を呼ぶと、ジャファーがゆったりふり向いた。こちらの中にアラジンを見つけ、ソラのキーブレードを見たときと同じ顔をする。
「フン。しぶとい奴め。あの砂漠から戻ってきたか」
「やっぱり、あの砂漠にいた魔物たちはあんたの仕業か。ジャファー!」
これ以上、思い通りにはさせない。こちらが戦闘の構えを取るも、ジャファーはくつくつ笑い続ける。
「やめておけ。あくまでこのわしにたてつくのか。愚かなる振る舞いはジャスミン姫もお喜びになるまいぞ」
「ジャスミン!」
「ごめんなさい、アラジン」
互いの名を呼び合う二人の視線をジャファーが腕を伸ばし阻害した。全員でいっせいにジャファーに襲いかかろうにも結構な距離がある。横目でソラとドナルドを見ると、ふたりとも作戦を考えているようだったが、いい考えは浮かんでいないようだった。
ふと、アラジンが腕を後ろにまわしてランプを擦っていた。小声でジーニーにジャスミンを助けるよう頼んでいる。
「お安いご用だ。これで2つめの願いだぞ」
唐突に具現しジャスミンを抱いて浮きあがるジーニー。やったー! と喜ぶこちらに対し、人質が奪われているというのにジャファーの余裕は消えなかった。
「申し訳ないが、2つめはそこでキャンセルだ」
どこからか、ランプを足に引っかけた赤い鳥がジャファーの元へ飛んでくる。アラジンがアッと空になった手元を見た。ジーニーのランプを盗まれた!
ジャファーが鳥からランプを受け取った瞬間、ジーニーの主人はジャファーになってしまった。ジーニーが「すまんね、アル」と言って消えてしまう。ジーニーに抱かれていたジャスミンは、彼が消えたので下で待ち構えていた赤い壺の中にすっぽり落ちた。
「ではドブネズミの諸君、ごきげんよう」
ランプを抱えたジャファーが城門広場の方向へ去ってゆくのを合図に、路上のあちこちに置いてあった壺からいっせいに蜘蛛のような足が生え、ハートレス――ポットスパイダーが現れる。ジャスミンが入った壺からも足が生えてきて、集まり、大型のハートレスの頭と尻尾を取りつけたムカデ姿、ポットセンティピードになった。
「な、なんだ!?」
「ハートレスだよ!」
キーブレードを握りなおすソラへ、ドナルドが叫ぶ。
「ジャスミン!」
アラジンが呼ぶと、ポットセンティピードの胴体の役割をしている複数の壺あたりからジャスミンの声が聞こえてくる。
「ジャスミンがハートレスの中に?」
助けを求める声に慌て、ポットセンティピードへ魔法を放ってみるも、クネクネ、カサカサ動きまわり魔法を避けられてまった。
「ドナルド。ジャスミンを助けるには、どうしたらいいの?」
「えぇと――みんなでハートレスを取り囲んで、壺を狙おう!」
それに頷いたソラが、すぐにアレッと言う。
「なぁ、ジャスミンが入ってる壺、どれだっけ?」
「声が反響して、よくわからないねぇ」
交代でポットセンティピードの頭を引きつけて、他の仲間たちで魔法や武器で壺を順調に破壊してゆくもジャスミンは見つからない。街じゅうを練り歩き、壺を壊すたびにポットスパイダーたちを補充し続けたポットセンティピードを倒しても、ジャスミンはどこにもいなかった。
ソラがトドメをさして、ポットセンティピードから大きなハートが弾け出す。ジャスミンの声もそれに合わせてふっつり途絶えて聞こえなくなった。
「ジャスミン!」
アラジンに応えたのは、街に反響するジャファーのしわがれた笑い声だった。
「ハートレスから聞こえていたジャスミンの声は、偽物だったの?」
ハートレスに呑まれたせいかと思っていたが、よく思い返せば――ポットセンティピードからあの輝くような心の気配はなかった。ドナルドとグーフィーが顔を見合わせる。
「ジャファーはどこへ行ったんだ?」
「城門広場の方へ歩いて行ったよね」
うつむいていたアラジンが、ハッと顔を上げた。
「ジャファーは魔法の洞窟へ向かったのかもしれない。あそこには、ランプだけじゃない。魔法のじゅうたんみたいに特別なもので溢れているんだ」
魔法の洞窟は、砂漠の中にあるらしい。ソラがキーブレードを担いで叫ぶ。
「砂漠へ急ごう!」