アグラバーからホロウバスティオンへ戻ってきて早々、マレフィセントに呼ばれた。待ち構えていたハデスを交え薄暗い礼拝堂の中でアグラバーでの出来事を報告をさせられる。魔法の洞窟でジャファーが人間を捨ててまでソラたちへ挑み敗北したことを教えてやると、ハデスは同情するようにため息を吐いた。

「ジャファーの奴、いいとこまでいったのにな。しかし、あっさり見捨てるとは。冷たいねえ」
「俺は計画通り、プリンセスを連れてきただけだ」

 仲間になった覚えはないし、慣れ合う気はない。視線を逸らすと、こちらへ背を向けているマレフィセントが無機質な声で言った。

「ハートレスにとりこまれた者を救う術はない。憎しみに身を焼かれた哀れなジャファー」

 黙とうを捧げるマレフィセントへ、ハデスは慌てた様子で手を横に振る。

「よせよ。俺だってあいつがどうなろうと知ったことじゃない……ところで、あれはもう見てもらえたかな?」

 後半がこちらを見てされた発言であったため、ニヤニヤ笑うハデスからマレフィセントへ視線を移した。魔女は無感情の声のまま言った。

「約束したろう? 我々に協力すれば、おまえの望みを叶えてやると――」

 突如テーブルの上に魔法が展開され、眠ったカイリの映像が浮かぶ。触れられないと分かっていても手を伸ばした。

「カイリ!!」
「迎えに行っておやり。船は用意してある」

 タイミング良く靴音が鳴る。見やれば、大きな羽根帽子の男が左手代わりのフックを見せつけてきた。

「俺様の船は客船じゃないんでな。のりごこちは保証しないぜ」

 確かに自力で迎えに行く手段を持たないが、頼んだのはカイリの捜索までだ。恩を売って懐柔し、カイリと合流した後も利用するつもりか。

「どうして俺のためにそこまで――何が狙いだ?」
「狙い?そんなもの――」

 やっとマレフィセントがこちらを向き、近寄ってきて気安く頬に手を伸ばしてくる。まるで毒を染み込ませたような色をした長い爪。

「私はね、おまえのことを我が子のように思っているのさ」

 嘘つきめ。死体のように冷たい掌に触れられるまえに払いのける。

「信じられないな」
「信じなくてもいいさ。でも私は約束を果たしたからね」

 マレフィセントの三白眼で不気味な黄色い瞳を睨む。こいつに尻尾を振ったとて、いつジャファーのように見捨てられるか分かったものではない。カイリを見つけたらすぐにでもここから出て行こう。
 フックの案内に従い礼拝堂から屋外へ出たとき、ジャスミンという姫のことを思い出した。カイリを見つける条件で仕方なく彼女を攫った。特別な剣に選ばれし勇者となったソラが戦っている姿も見てきた。仲間たちと協力し、信頼しあって戦っていた。
 腹の底から湧く怒りのまま拳を握りしめる。

「ソラ。お前が他の奴らと遊んでいる間に俺はカイリを見つけたぞ」
「何か言ったか?」
「別に何も」

 振り向いてきたフックは何か言いたげだったが、フンと鼻を鳴らし再び歩き始める。
 自分には特別な剣も信じあえる仲間もいない。ソラより先にカイリを見つけられるのなら手段を選んでなんかいられない。何を犠牲にしようが、誰を悲しませようが、ソラにだけは負けたくない。
 フックの船に乗り込むと人間の手下が何人かいたが、ほとんどの船員はハートレスだった。

「マレフィセントのお気に入りだろうが、船の上では俺が船長だ。俺に従ってもらうぜ」
「どうでもいい。さっさと出航してくれ」
「くぅぅ、生意気な。だからガキは嫌いなんだ……」

 フックがなにやら言っていたが、返事もせず聞き流す。カイリとの再会しか頭になかった。





★ ★ ★





「必ずジャスミンを見つけてくれよ、ソラ」
「ああ!」

 アラジンと固く約束し、別れを告げてアグラバーを後にする……前に、片付けなければならないことが残っていた。
 まず、フィリアは裂けてしまった服を直すこと。フィリアはせっせと裁縫道具を借りて縫っていた。

「斬られた部分が広くて、時間がかかりそう……」

 しかしこれから先も透ける薄布でいるわけにはいかないだろう。半泣きのフィリアになんて声をかけてよいのやら。グーフィーはフィリアの借りた服の代金と着なかった服を店に置きに行き、ドナルドは魔導書をひっぱりだしてペラペラとめくっていた。

「確か、服に関する魔法はこの辺りに載っていたような……」
「さっきから何してるんだい?」

 せっかく自由の身になったのでじゅうたんと一緒に旅に出ると騒いでいたジーニーが、ひょっこりドナルドの側に現れた。フィリアと魔導書を見てハハーンと笑う。

「なんだよ、水くさい。君たちだって俺の大事な友だちなんだ。言ってくれれば、その程度お安い御用だ」

 パチッとジーニーが指を鳴らすと、フィリアの服が輝きだして、レースとリボンがふんだんにつけられたお姫様のドレスみたいな服になった。フィリアの顔が青ざめたのに気づいていないジーニーが得意げにウインクする。

「ちょっとサービスしといたぜ。女の子はオシャレしなくちゃ」
「あの、ジーニー。裂けたところを直すだけでいいの……」
「え〜? 気に入らなかった? 別の色のほうがいい?」
「気に入ってないわけじゃないんだけど……元に戻して。お願い」

 ブーブー唇を尖らせるジーニーをフィリアはなんとか説得して、元の形に戻してもらっていた。こっそり襟元やスカートの裾などにジーニーのデザインの名残がある。
 フィリアが元の服に着替えると、ジーニーはやれやれと肩をすくめた。

「この先も、あのハートレスとかいうやつらと戦うんだろ? 服の強度をあげておいたから次からは簡単に斬れたりしないよ」
「ありがとう!」
「可愛くするより、そっちのほうを喜ぶなんて……」

 ジーニーはランプの魔人をやめてからも万能さは健在であるらしい。それならと訊ねてみた。

「なぁジーニー。フィリアのハートレスから狙われやすい体質って魔法で治せたりする?」
「ん? 体質改善? ダイエット用ならやったことあるけど」

 ジーニーはメガネをとりだして、フィリアをジロジロ観察した。「あ〜、なるほどねぇ、そうなってんのね」とふむふむ呟いて、メガネをぽーいと投げ捨てる。

「うまくいくかなぁ。ちょーっと痛いかもしれないけど……本当に試してみる?」
「痛いってどれくらい……?」

 念を押されたフィリアが体を縮こませ恐々とジーニーを見あげると、彼は白衣姿になり、トンカチやノコギリ、チェーンソーを次々と取り出した。

「体がバラバラに千切られて、腕がすり潰され、足がえぐられ、腹わたがねじ切られ、頭を粉砕されてしまうような〜……要するに、息もできないほどの超激痛」
「ひぇ」
「ジーニー、やっぱりナシ!」

 怯えきったフィリアを背にかばいキャンセルすると、ジーニーは「あ、そう?」とあっさり凶器をしまった。ジーニーは楽しいジョークは言うけど、いたずらに人を傷つけたり怯えさせたりはしない。どうやらフィリアの問題はまだまだ解決しないようである。




 To be continue... 






2020.12.16

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