みんなでそうっと船首の上を覗いてみると、ピノキオと白髪の老人が向き合っていた。彼らの足元には緑の円柱型のグミブロック。腰が曲がりかけた老人はしきりに老眼鏡を調整しながら、物珍しそうにグミブロックを観察していた。
「これはなんだい、ピノキオ?」
「これでここから抜けだせるんだよ、お父さん」
「へえ、本当かい? こんなものでねえ──」
「本当だよ」
よいしょ、と船首に登ったソラが答える。話していたふたりがこちらを向いた。
「ピノキオ、どうやってここまで来たんだ?」
「おや、まあ! おまえさんたちもクジラに呑みこまれちまったのかね?」
ソラの質問をさえぎって、老人が訊ねてくる。ソラは面喰って「まあ、そんなとこ」と苦笑をした。
戦士でも船乗りでもない、ただの民間人の恰好をした老人は、いかにもお人よしそうな顔つきで、柔和に微笑みながら自己紹介してくる。
「わしはゼペット。この子の父親ってわけさ」
父親の前だからか、ピノキオが恥ずかしそうにモジモジしていた。トラヴァースタウンにいた彼がここにいるなんて。ピノキオに一人で世界の海を渡る力はないだろう。誰かに連れてきてもらったとしか思えない。
「いや、はなればなれになった時はどうしようかと思ったが、もう一度会えてなによりだよ」
ゼペットに手招きされて、ぞろぞろと船首の中へ。僅かなスペースにベッドにタンス、金魚鉢など生活道具がずらり。クジラの口の中でずっと暮らしていたかのような生活感があった。
「どうやらピノキオのことを知っとるようだが──わしのいない間、ピノキオはいい子にしてたかね?」
ゼペットはグミブロックをしまいながら、ごきげんに話してきた。あのブロックはもしかして自分たちがグミシップに積んでいた予備ではと思ったが、返してとも言えない雰囲気である。
「まあまあ、せっかく来たんだ、ゆっくりしていきなさい。なあ、ピノキオ──」
返事がなかったため、ゼペットがおや? と周囲を見回す。いつの間にかピノキオの姿は船首にはなく、クジラの体の更に奥へと消えてゆくのがちらっと見えた。
「危ないから奥へ行ってはいけないと言っておいたのに……仕方のない子だ。……それでも、わしにはかわいい息子なんだよ」
ゼペットが目もとに皺をたくわえて微笑む。父親――お父さん。自分のお父さんはどんな人だったのだろうと想像し、何も浮かばなくてちょっと寂しい気持ちになった。
ピノキオが戻ってくる様子はない。ゼペットが眉をさげた表情でこちらを見た。
「ピノキオ、いったいどこまで行っちまったんだろう?すまないが君たち、あの子を連れてきてもらえないかね」
「わかった」
いくら巨大とはいえモンストロだって生き物ならば、口から先は消化器官に繋がっているはずだ。ピノキオがクジラの栄養になってしまったら大変である。ソラもドナルドもケンカせず、すぐに頷いた。
「モンストロの腹の中はとても迷いやすいが──あちこち転がっている箱やタルを目印にすればいい。ふわふわ空を飛ぶ、緑色の化け物に気をつけるんじゃ。あいつは人をモンストロの奥へさそいこもうとするらしい。ピノキオが、あいつを追いかけて遠くへ行っていないといいが……」
ひととおり説明すると、ゼペットは「本当にこんなカタマリで海に出られるのかね?よく見ると面白いものだな。ふうむ……ふむふむ……」なんて、グミブロックを研究しはじめてしまった。なんだか少しシドと似ている。
「クジラのおなかの中なのに、化け物がいるの……」
不安になって仲間たちを見ると、みんなはウーンと首をかしげる。
「クジラの腹の奥にさそいこむって、どんな化け物だろう」
「おなかの中にずっといて、溶けないのかなぁ?」
「とにかく、急いでピノキオを見つけよう!」
ドナルドの号令でぞろぞろ歩き出す。船から降りてクジラの肉の部分に触れると、何かの分泌液でぬめぬめしていた。
もう。こんな怖そうなところへ行ってしまうなんて。ピノキオをちょっと恨めしく思いながら、薄暗く生臭くて、ぬめぬめのクジラの腹の奥へ足を踏み入れた。