ギロチン広場で暴れるハートレスから逃げ惑っていた住人たちは、いま激しいサンダガの音に驚いていた。この世界の雰囲気が苦手そうなので隠れているかと思いきや、勇気をふりしぼってついてきたフィリアの魔法威力がいつもより過激であるせいだ。
 先ほどまでジャックたちの制御下にあったハートレスたちはすっかりいつも通り。キーブレードとフィリアに惹かれて襲いかかってくる。キャーキャー半泣きで怯える姿だけを見れば、黒猫+魔女のコスプレをした女の子がオバケに怖がってる可愛らしい姿であるはずなのに、フィリアに近寄ろうとするハートレスは容赦なく黒こげにされ、氷漬けにされ、風に切り刻まれて、ガンガン消滅していった。

「フィリア、フィリア! もうハートレスはいなくなったよ」

 ハートレスがいなくなった後も壁側でぶるぶる震えているフィリアへ声をかけると、フィリアはこちらを見るなりひっついてきた。女の子から密着されることや、紅潮した頬に潤んだ瞳に頼られている状況全てに不謹慎にもドキドキしてしまうけど、フィリアは怖がっているのだからと己に言い聞かせる。

「フィリアの魔法、いつもよりすごかったな」
「魔力をちゃんと温存しないと、後でへばっちゃうぞ」
「う、うん……ごめん」

 ドナルドに釘を刺され、へにょっと猫耳を垂れさせている。あの耳、どういう仕組みなんだろう。

「よし、広場は片付いたな。さぁ、ソラ。きっとこっちだ!」

 広場の安全を確認したジャックが、街の一角、墓地へとスタスタ行ってしまった。長い脚をみんなで追えば、そちらもハートレスで溢れているが襲われている住人の姿はない。「おや」とジャックが困り顔になる。

「ハートレスしかいないじゃないか。サリーはここにいないのかな?」
「いちおう墓場もしらべておくか……でもその前にハートレスをおっぱらわないとなあ」

 ワイトナイト、ガーゴイル。墓地にぴったりな姿のハートレスたちがぐるっとこっちに視線をよこす。フィリアの怯えが一層強まるのが腕越しに伝わってきた。
 墓地は広場より狭く、墓標やカンオケでごったがえしている。もし先ほどと同等威力の魔法が放たれてしまったらめちゃくちゃになってしまうかも。

「フィリアは下がってて」
「ソラ。わ、わ、私、大丈夫だから……」

 ガクガク震えながら両手を組むフィリアの顔色は、気の毒なほどに真っ青だ。

「ここは俺たちに任せて!」

 フィリアを墓地の入口に隠し、ハートレスの群れへ強気につっこんで蹴散らしてゆく。
 ふと、ワイトナイトの一匹がすさまじい跳躍力でぴょーんと頭上を飛び越えて行った。ワイトナイトがその長い腕で隅っこにいたフィリアを抱きしめた瞬間、墓場にドッカン雷が落ちた。





 ハートレスがいなくなって、倒れた黒こげ墓標を反省顔のフィリアと直している間に、ジャックが小さな墓の前で膝を叩いた。たちまち鼻先が輝く犬の幽霊がふわっと現れ、ジャックの周りを懐っこく飛ぶ。

「ゼロ! サリーを見なかったかい?」

 ゼロはひゅ〜っと飛んで、まっすぐにとある石像の影に入りこんだ。すぐにキャッと控えめな女性の驚きが聞こえ、そうっと風になびく長い茶髪が姿を現す。フィリアからヒクッと怯え声があがった。茶髪は体中のあちこちに継ぎ接ぎ糸が目立つ、まるでぬいぐるみかゾンビを彷彿とさせる女性だった。
 女性は長いまつ毛を瞬かせ、こちらにジャックを見つけホッとしたようだった。

「何かあったの、ジャック?」
「ああ、サリー。すべて順調だよ。今年のハロウィンはすばらしいものになりそうだ」

 女性らしい仕草で立つサリーに、ジャックは上機嫌な口調で近寄ってゆく。サリーの頬がポッと染まるのが見えた。

「キミの持ってる記憶≠ェあれば言うことなしだよ」
「記憶>氛氓アれのことかしら」

 サリーが持っていた白い花を「ワスレナグサよ」とジャックに渡す。ジャックは破顔して、ワスレナグサをかざして喜んだ。

「ありがとう。サリー。助かったよ」

 しかし、協力してくれたのに、サリーの気分はジャックとは違っているようだった。

「ねえジャック。なんだかイヤな予感がするわ……ハロウィンは、他の計画の方がよくないかしら」
「これより面白いハロウィンなんてあるもんか! 完全な心をつくればハートレスも思い通り動かせる。サリー楽しみにしてておくれ!」

 サリーは困ったようにうつむいて、やっとこちらの存在に気がついた。挨拶するより先にサリーは早口でジャックに語る。

「ねえジャック、今年の主役はこの子たちにしたら? よにんとも、それなりに面白くて怖い顔だわ。ハートレスのハロウィンより、ずっといいと思うけど……」
「サリー、いま僕は一刻も早く戻らなくちゃいけないんだ。君も一緒に帰ろう。フィンケルスタイン博士が待っているぞ!」

 ワスレナグサを掲げたジャックは踊るような足取りで墓地を出て行ってしまった。サリーは切なげにため息をひとつ吐くと、とぼとぼとジャックに続く。
 サリーもハートレスが踊るハロウィンに反対なのか。チラと仲間たちを見るとサリーに同情的な視線を送っていた。
 う〜ん、そんなに不安がることだろうか?

「もしうまくいかなかった時は、俺たちがハートレスを退治すればいいし、心配いらないよな」
「まったく、ソラったら、いつもそうなんだからァ!」

 フォローしたつもりがドナルドにガミガミグワグワ怒鳴られて、あちゃ〜と頭をかきながら自分たちも墓地を出た。

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