森に入り、澄んだ湖の側を通りすぎた崖の先──道を塞いでいた魔女の封印を緑色の服の妖精、フォーナが解いた。封印の先はまるで別世界のように雰囲気が違っていて、荒れた山道が暗雲たちこめる不気味な城へと続いている。いよいよ魔女の領地に入ったのだ。

「フィリア、怖くないか?」

 石だらけの山道を登りはじめたとき、ヴェントゥスが確認するように訊ねてきた。視界は暗いし闇の力の気配が強い。これから戦いに行くのだから手を握ってもらう余裕は当然ながらないだろう。
 フィリアはヴェントゥスに力強く頷き返す。先の世界でずいぶんと足を引っ張ってしまった分、今度こそヴェントゥスに頼られるような戦いをしようと心の中で決めていた。

「平気だよ。あそこにいるのはオバケや幽霊じゃなくて魔女だもの」
「さっきもそうだったけど……フィリアって、オバケとか幽霊がダメだったっけ?」

 何気なく飛んできた質問に思わず表情が苦くなる。
 ヴェントゥスと会う以前、幼い頃に聞かされた心霊話。それは当時の自分に強烈な印象を与え──それから、そういうものが大の苦手になってしまった。今はさすがに信じてはいないが、未だにあのときの恐怖は心に刻みついている。

「…………ヴェンと妖精さんたちが一緒だからだいじょうぶ。それよりも早く行こう」
「あっ、ああ……」

 ごまかすように早足で先に行くと、ヴェントゥスが慌てて追いかけてきた。










 マレフィセントの城には、アンヴァースではなく魔女の手下である魔物たちで溢れていた。それぞれ槍や鈍器、弓を携え、城のすみずみまで見張っている。初めはできる限り静かに忍び込む予定だったのだが、すぐに見つかり諦めた。こうなったら正面から突き進むまで。

「──炎よ!」

 駆け寄ってきた手下に炎を放つ。炎は狙った手下にぶつかって、側にいたもう一匹を巻きこんだ。
 マレフィセントの手下たちは、数は多いものの打たれ弱く、倒すと緑の炎となって消え失せる。近づいた手下はヴェントゥスが、遠くにいる手下はフィリアが魔法で倒しながら順調に魔女の城を進んでいった。
 道なりに奥へ奥へと走り続け、足音が反響する冷たい石造りの廊下の先にあった玉座の間にたどり着いた。そこでは更に奥へ続く通路の前でたくさんの手下たちが番をしている。

「マレフィセントの手下だわ」

 赤い服の妖精、フローラが小声で叫ぶ。フィリアたちはとっさに柱の影に隠れ手下たちの様子を覗き見た。その数は軽く20を超える。

「あの先に何かありそうだな」
「ちょっと多いね。どうする?」
「あの様子なら問題ないよ。このまま行こう」

──確かに。今まで出会った手下たちは全て倒したおかげだろうか。まだここまで騒ぎが伝わっていないようで、手下たちは眠たそうに大きなあくびを繰り返している。

「退屈そうだな。俺たちが相手してやるぞ!」

 柱の陰からヴェントゥスが勢いよく飛び出した。虚を突かれた敵が驚いている間にフィリアが準備していたサンダーを放つ。小さな雷に感電し、手下たちが持っていた武器を床に落とした。その隙にヴェントゥスが手下たちと距離を詰める。
 しばらくヴェントゥスを後ろからサポートしていると、背後からの足音に気が付いた。さすがに敵が集まってきているようだ。前方を塞ぐ手下はまだ10匹は残っている。増援が来る前に倒しきるには間に合わない。

「ヴェン、後ろからきてる。気をつけて」
「俺はこっちを倒すから、そっちの方はフィリアに任せるよ!」
「……うんっ、任せて!」

 口元が緩みそうになるのを我慢して、ヴェントゥスと背あわせの状態で敵の襲撃に備えると通路からやってきた手下は7匹だった。そのうち弓を持った手下が2匹。
 放たれてきた矢が妖精たちの魔法で花に変わった。可愛らしい花を受け取りながらフィリアは先ほどよりも張り切って魔法を放った。

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