厳重に守られていたのは、祭壇の間という大部屋だった。
 そこは魔女の魔法で迷路に作り上げられており、地面に敷かれた魔方陣の上に立って、対の魔方陣の場所へ移りながら進むという仕掛けが施されている。面倒だが、反面、魔女がそれ程のものを隠しているという証拠だった。
 妖精たちに導かれながらフィリアたちが魔方陣を渡ってゆくと、大きな炎が燃える祭壇の前にたどり着いた。黄緑色の、不気味な揺らめき。その中に、光の玉が浮かんでいた。

「オーロラ姫の心だわ!」

 光を見て、青い服の妖精、メリーウェザーが叫ぶ。

「あれが、心……」

 暖かく、優しい光を放っている。心があんなに綺麗なものだったなんて、初めて知った。フィリアが心に見とれていると、フローラとフォーナが歯がゆそうに心を見上げた。

「とても強い力で封印されているわね」
「これは、私たちには解けないわ」
「俺に任せて」

 ヴェントゥスがそう言って、キーブレードを炎に向ける。剣先から光が放たれ、炎がみるみるうちに消えてゆく。解放された心は、オーロラの眠る城の方へまっすぐに飛んでいった。

「これで、呪いが解けるな」
「うん。よかった……!」

 喜ぶのも束の間、いきなり周囲が白い光に包まれる。目が眩み瞼を閉じると、視界が一面森の中に──知らない男と、オーロラの姿だった。

 呼び止められ戸惑うオーロラに、男が優しく話しかける。二人はすぐに惹かれあい、しばし寄り添い合って語り合うも、名前を尋ねられたオーロラは、教えられないと断ってその場から去ろうとする。呼び止める男と次に会う約束を早口に交わし、オーロラはそのまま去ってしまう。

 そこで光が収まって、景色は魔女の城に戻っていた。まるで、夢を見ていたかのような一瞬。理解が追いつかない不思議な体験に隣のヴェントゥスを見ると、ヴェントゥスも驚いた顔でこちらを見ていた。

「今のは何?」
「オーロラ姫、だったよね」

 ヴェントゥスとポカンと顔を見合わせていると、フローラたちが笑顔で言った。

「オーロラ姫の記憶よ。心が戻ったようね」
「夢が、現実になったんだ!」

 ヴェントゥスが嬉しそうに言う。夢というと、先の世界で出会ったシンデレラが脳裏に浮かんだ。彼女が帰って来る前に旅に出たが、今頃どうしているだろうか。

「夢は思いの強さ。オーロラ姫の中にある強い思いが、真実の愛に巡り合わせたのね」
「あなたたちの心にも、強い思いがあるわね」

 願い──目的。テラに会うこと。そして、あの少年の言葉が、真実でないと確かめること──。

「うん!」
「はい!」

 妖精たちに、ヴェントゥスと共に力強く頷いた。

「とても強い光を感じるわ」
「さぁ、私たちも帰りましょう」

 メリーウェザーの言葉を合図に、来た道を戻り始める。先を歩くヴェントゥスを見て、ふと思った。

「……真実の愛、か」
「どうかしたの?」

 意図せず漏れた呟きに、側を歩いていたフローラが訊ねてくる。しまったと思うが、もう遅い。

「あ。いえ、別に大したことじゃ……」
「あら、なぁに?」

 フローラに続き、フォーナもこちらを見上げてくる。
フィリアは苦笑しながら、ヴェントゥスとメリーウェザーの背に視線を移した。

「いつかヴェントゥスにも……オーロラ姫のように、そういう相手と出会う時が来るのかなって思っただけです」

 ヴェントゥスだけでなく、テラやアクアも。その時を想像するだけで、胸にポッカリと穴が開いたような気持ちになる。友情が褪せるとは思わないが、寂しいと感じるのは甘えだろうか。
 話を聞いた妖精たちは一度顔を見合わせ、そして嬉しそうに羽を動かした。

「ええ、そうよ。あなたたちも、いつか必ず巡り合えるわ」
「もう出会っている場合もあるのよ?」
「えっ?」

 フィリアがフォーナを見ると、フォーナは優しく目を細めた。

「近すぎて、なかなか気づけないの」
「それは、どういう……?」
「フォーナ、だめよ。それ以上は野暮になるわ」
「ふふ、そうね」

 フォーナが答える前に、フローラが制した。意味深な笑みを浮かべる二人の妖精たちに、なんだか置いていかれたような気持ちになる。

「野暮って──」
「三人とも、何してるんだ?」
「のんびりしていると、魔女に見つかってしまうわよ!」

 魔方陣の側で、ヴェントゥスとメリーウェザーが呼んでいる。慌てて二人の方へ駆け寄ったため、フィリアの疑問は解決しないまま会話はそこで終わってしまった。

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