鉄のパイプが蔦のように壁じゅうに這っている大広間。薄暗い光の中で、背が凍るような光景を見ていた。
カイリの他に、別の世界で行方不明になったアリスやジャスミンを含む上品なドレスを着た美しい女性たちが六人、壁際に用意された設備の中でまるで美術品のように眠っている。
「七人のプリンセス──」
ジャファーが言っていた。扉を開く力をもった選ばれしプリンセスたちを集めていると。
この世界に着いたとき、リクはこのハートレスの巣窟のような城を慣れた様子で歩いていた。彼が戻ってくるまで自分にカイリと大広間にいるよう指示してきたことからも、ここに女性たちが囚われていることも知っていたのでは。彼の性格ならば、彼女たちを救おうとするはず──。
「とにかく、この人たちを助けなくちゃ」
呼びかけても女性たちは目覚めない。設備を破壊すれば目を覚ましてくれるだろうか。彼女たちにケガをさせない威力を計算していると、雪のように白い肌の女性や純白のドレスを着た女性、青いドレスの女性の寝顔が気になった。
「この人たち、どこかで会ったことがあるような──?」
「それに触るんじゃないよ」
驚いて振り向くと、入口からマレフィセントがとても上機嫌な顔で大広間に入ってくる。ゆったりとした歩調で、杖に止まるカラスを指先で撫でていた。
「大人しくしておいで。おまえたちにはこれから大事な役目があるんだからね」
「リクはどこ?」
「城の前で騒ぐ獣を退治しに行ったよ」
マレフィセントがカイリの方に歩いていくので、慌ててカイリの側に戻った。マレフィセントとカイリの間に立って、妙な真似をしないか警戒する。
「プリンセスが開く扉って、なに?」
「あれをごらん」
マレフィセントが奥にあるエンブレムに視線を移した。大人がくぐれるほどの大きさのフレームの中には、赤、青、緑の三色に濁る何かが渦巻いていて、この部屋の不気味さに拍車をかけている。
「あの場所にプリンセスたちの力が結集した時、大いなる心、キングダムハーツへ繋がる扉が現れるのさ」
「……キングダムハーツ……?」
その名称になぜか心がざわめき、揺さぶられる。
一方で、マレフィセントからあきれた溜息が返ってきた。
「まったく、質問が多い子だね。おまえが昔のように平凡のままだったら、ここじゃなく牢屋に入れてやっているところだよ」
雷に打たれたような衝撃だった。自分にどんな過去があろうとも、この魔女と関わったことがあるなんて夢にも思っていなかった。
「私の過去を知っているの?」
「ああ。知っているよ──知りたいかい?」
この人から、過去の自分のことを知ることができるなんて。
心臓がいやに高鳴る。手が震え、足もガクついた。しかし魔女が話してくれたとしても、真実かどうか知る術はない。
「おまえが私の言うことを聞くのなら、教えてやってもいいよ」
マレフィセントの嘲笑う表情に怒りを覚える。この魔女は、こうやってリクのことも利用したに違いない。
こちららの反応に満足したのか、くつくつ笑いながらマレフィセントは大広間の中心に立った。
「──さて、この長年の計画の仕上げといこうかね」
魔女が両腕を上げて叫ぶ。
「さあ、プリンセスたちよ! 鍵穴を呼び出しておくれ!」
マレフィセントの魔力が高まり、場に満ち始めた。何か良くないことが始まる予感に鳥肌がたつ。囚われた女性たちの胸元が桃色に輝きはじめ、光は線となって伸び束となり、エンブレムの中心へと繋がっていった。