施錠されてた正門を、ビーストと共に仕掛けを解いた。木剣はあの嵐の夜と同じように全くハートレスに効かなかったけれど、魔法は有効。ビーストと協力し、なんとか襲いかかってくるハートレスを蹴散らして先へ進むことができた。
正門を開き、廊下を進む。つき当たりの扉の前でビーストが唸った。
「ここから先は、やつらの手の内だ。覚悟はいいか?」
頷いて、慎重に扉を開く。
長い階段と噴水があつらえられたエントランスには、キーブレードを持ったリクが立っていた。ドナルドとグーフィーも心配そうな顔をしてリクの背後に控えている。
緊張しないわけがなかった。もしリクと戦うようなことになれば、勝敗は分かりきっている。
リクはこれまで見たこともないような表情をしていた。怒りと苦しみと苛立ちがごちゃまぜになったような顔だ。
リクはきつくこちらを睨みながらも、すぐには喋らなかった。あちらの出方をうかがっている数秒の間に、背後からビーストの怒りの咆哮がして廊下の扉が固く閉じられる。振り向いた時にはビーストの姿はなく、彼を締め出すための時間だったと分かった。
「なぜ帰らなかった」
キーブレードを失っても、仲間たちを失っても、脆い木剣で恐ろしいハートレスと戦うことになっても、進んできた理由なんてたったひとつだ。
「俺はカイリとフィリアに会いに来たんだ」
「闇の力で消されたいのか」
そこでリクの服が禍々しい闇色のスーツに変わる。筋肉の筋を浮彫りにしたようなデザインのそれは、リクに纏わりつく闇を具現化したかのよう。
リクの背後でドナルドとグーフィーが戸惑った顔でおろおろしている。
離れていてもリクのもつ闇の力の迫力を肌で感じていた。いまリクに満ちている力を容赦なくぶつけられたら、きっと自分の身体など粉々になってしまうだろう。
「俺の体は消えるかもしれない。でもこころは消えない。俺のこころは、仲間とみんなとつながってるんだ!」
どんなに恐ろしい力で脅されたって退く気はない。きっぱりと言い切ると、リクの瞳にカッと怒りが猛るのを見た。
「それなら、俺がためしてやる!」
リクが青い炎の魔法を放ってくる。自分の魔法では相殺できない。目を瞑って覚悟すると、炎が消える音がした。薄ら目を開けば、グーフィーがリクに向かって盾を構えている。
「ソラが消えるなんて、いやだよ」
リクはグーフィーを冷ややかに見ていた。
「王の命令を忘れたのか」
「忘れてないよ。でも──僕、ソラといっしょに旅したいんだ。だって、大事なともだちだもんね」
グーフィーはいつもの笑顔でそう言って、未だリクの後ろにいるドナルドに目を向ける。
「ごめんね、ドナルド。今度、王様にあやまっといてよ」
「待て、グーフィー!」
涙目だったドナルドが、精一杯叫んだ。
「いっしょにあやまろう!」
ドナルドも全速力で駆け寄ってくる。
「まあ、その。トモダチだしね」
「さっきはごめんね。ソラ」
赤い顔をしたドナルドの照れ隠しな言葉と、にこにこ笑顔のグーフィーの優しい言葉に心の底があったかくなる。鼻の奥がツンとして、目の奥が熱くなった。消滅の可能性を前に、とても怖かったけれど信じていた、本当にたいせつなもの。
「ありがとう──ドナルド、グーフィー」
リクから失笑が聞こえる。
「武器も持たずに戦う気か?」
「俺の武器は、キーブレードじゃない。ほんとうの武器は──心なんだ」
「心? そんなもろいもの、なんの役に立つ!」
リクが嘲笑する。ドナルドとグーフィーが戻ってきてくれても、相変わらず状況はリクの方が圧倒的に有利なのは変わっていない。
けれど、ドナルドとグーフィーのおかげでもう怖くない。自信をもって、このつながりを信じることができる。
「ああ、もろいかもな。でも、俺の心はみんなとつながってる。大切な人と。大切なともだちと! 誰かが俺のことを思ってくれたら。たったひとりでも忘れずにいてくれたら──俺の心は消えない」
今まで出会ってきた友だちの顔をひとりひとり思い出し、最後に目の前に対峙している友を見る。
「つながる心が、俺の力だ!」
リクの手に収まっていたキーブレードが強く輝き、再び自分の手に戻ってきた。キーブレードのおかげで手に入れたつながり。今度こそ絶対に手放さないようにしっかりと握りしめた。