プリンセスたちの設備はマレフィセントの強固な守備魔法がかけられて破壊できず。また、巨大で強力なハートレスたちがうじゃうじゃと蔓延っているせいで、大広間から一歩でも出ようものなら襲いかかられて突破できず──結局、何も出来ぬまま時が過ぎてしまっていた。

「あっ」

 遠くから響いてくる戦闘の音が落ち着いた頃、またあのリクじゃないリクが帰ってくる。彼はこちらを一瞥した後、エンブレムの上部へ腰かけた。

「時が来る」
「え?」

 意味を問いただそうとしたとき、バタバタと数人の足音が近づいてくる。ソラたちだ。ディフェンダーを星の魔法で押し潰し、ダークボールを斬り払い、足を止めぬまま大広間の階段を駆け登ってきていた。「彼の元を黙って去ったのに合わせる顔がない」という気持ちと「リクとカイリを助けて!」という頼りたい気持ちが入り混じる。結局、どんな顔をすればいいのかも決まらないうちにソラたちが到着してしまった。

「ソラ……」
「フィリア! よかった、無事だったんだな!」

 階段を登り切ったソラはまずこちらに気づき、

「カイリ!」

 自分が抱きしめているカイリを見て叫んだ。
 彼は真っ直ぐに駆け寄ってきて、カイリを揺さぶり起こそうとする。

「カイリ、カイリ! 目を開けてくれ! フィリア。どうしてカイリは」
「無駄だ。その娘は心をなくして眠り続けている」

 答えたのはあの男。ソラは彼を見て、カイリから手を放しがら困惑したように訊ねる。

「おまえ、リクじゃ、ない──?」
「……あの人、リクが心を闇に開いたって言ってた」
「リクの心が、闇に?」

 ソラはどういうことだと顔をしかめたが、構わず彼は話を続ける。

「最後のプリンセスが眠っているせいで、鍵穴は未完成のままだ」

 リクの身体が音もなく降りてくる。

「プリンセス──? カイリがそうだっていうのか!?」
「その娘の力なくして、鍵穴は完成せん。目覚めてもらうぞ」

 リクだけでなく、カイリにも何かするつもりだろう。カイリをぎゅっと抱きしめて、なるべく男の視線から隠したかった。
 ソラが激昂する。

「勝手にリクをあやつって、何言ってるんだ! リクの心を返せ!」
「ならば、おまえもプリンセスに心を返すがいい」

 黒いキーブレードの切っ先を向けられた途端、ソラの胸が輝き、苦しそうに床に膝をついてしまう。側にいたドナルドがソラの名を呼び心配する間、気づいたことがあって呆然とした。カイリの心を強く感じたのだ。

「いったい──」
「まだわからんのか?」

 不思議がるソラへ、階段を降りながら呆れた口調で彼は言う。

「反応しているのだよ、プリンセスの心が! おまえの中に眠る、カイリの心が!」
「カイリが俺の中に──」

 ソラが服の胸元をぎゅうと握る。

「わが目はすべて見通している」
「おまえ、誰なんだ」

 苦しむソラの問いに、男はゆっくりと答えた。

「我が名は、アンセム。闇の探究者」

 アンセムレポートを書いたアンセムならば、レオンたちの世界の支配者だった人で、行方不明とされていたはずだ。ハートレスの研究をしていた賢者が、闇を操りリクの身体を乗っ取ったと──?
 アンセムがツカツカ歩み寄ってくる。ソラはまだ苦しげに胸を押さえている。
 ドナルドが勇気を出して飛びかかるも、片手でいなされ階段下へ放り出された。
 自分もソラとカイリを守らなくちゃ。
 リクに向けて魔法を放つことにためらいつつも、魔力を操る。

「凍れ!」

 氷の風はアンセムに触れると一瞬にして巨大な結晶に変わり彼を縛ったが、闇色の剣に切り裂かれてたやすく粉々になってしまった。普段の半分の威力も出しせていない──。
 突然、目の前が一面に輝く。

「これは」
「そこで大人しくしているがいい」

 アンセムが作り出したらしい光の壁で、カイリごとソラたちから隔離されてしまった。これではソラたちの側へ干渉できない。
 アンセムのキーブレードが改めてソラへ向けられる。

「さあ、引きずり出してやるぞプリンセス。その力で鍵穴を完成させ、私を不滅の闇に導け!」

 黒いキーブレードが振り上げられた。

「だめ!」

 ソラはまだ床に膝をつけたまま──。

「ソラ!!」

 カイリの声が聞こえた気がした時、キンと大きな音が鳴る。ソラがアンセムの攻撃をキーブレードで受け止めていた。

「おまえなんかに──」

 歯を食いしばったソラが、振り下ろされる力に抗い立ち上がる。

「おまえなんかに、カイリの心を渡すもんか!」

 ソラが振り払ったため、アンセムは後方へ飛びのいた。そして、まるで本物のリクと同じポーズでキーブレードを構えクッと笑う。

「来い」

 挑発的なアンセムの言葉を合図に、ふたりの戦いが始まってしまった。

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