薄暗い礼拝堂で、ついにマレフィセントと対峙した。
彼女は勝ち誇った笑みで叫ぶ。
「来るのが少し遅かったようだね。最後の鍵穴が姿を現し、世界はもうすぐ闇に覆われる! もう誰にも」
「止めてやる!」
魔女から放たれるプレッシャーを跳ね返すようにキーブレードを構えた。仲間たちもそれぞれ戦闘の構えをとる。
「鍵穴も、この世界も──おまえの思いどおりにはさせない!」
「この哀れな愚か者。勝てると思うのか私に。悪の女王の私に!」
憤怒の顔をしたマレフィセントが両腕を上げると、彼女の足元の床がくりぬかれて宙に浮いた。あんなに巨大な岩を浮かせ操作する魔法量と技術──戦闘用とはいえ自分も魔法を扱えるようになったからこそ、魔女のずば抜けた魔力の凄さが分かる。
「真の恐怖を思い知れ!」
マレフィセントの杖が掲げられクルクル回されると、屋内なのに雷雲が発生し雷がいくつも落ちてきた。強力なハートレスを次々と召喚され魔女を守る。
「ハートレスは僕たちに任せて!」
倒しても湧き水のように現れるハートレスは仲間たちが引き受けてくれた。
浮いた足場の上で魔法を唱え続けるマレフィセントを、追尾性の高い魔法を撃ちながら追う。
紫雷の包囲網を突破し、何度か彼女に斬りつけるとやっと手ごたえがあった。
「おのれ、よくも。この私に傷を!」
腕にダメージを負ったマレフィセントが無傷のほうの腕で思いきり杖を振り回したため足場から落とされる。
気を取り直してもう一度マレフィセントに接近しようとしたとき、魔女が大声で叫ぶ。
「落ちよ天空のしもべ。破滅の星々よ!」
途端に、魔女の背後に宇宙が広がる。ダークメテオ──宇宙の中から大きな青い隕石が高速で飛び出してくる。防ぐのは難しいと直感し、建物の柱の影に隠れてやりすごす。その間に仲間たちの様子を確認すると、ケガをしたり目を回している者がいた。
「潰されるがいい!」
高笑いしているマレフィセントの足場にまた飛び移るのは難しいと判断し、離れた場所からキーブレードをふりかぶった。
「これで終わりだ!」
ストライクレイド──魔力をこめてキーブレードを魔女に何度も投げつける。魔女は気づいたようだがかわしきれず、肩へ、足へ、頭へと次々キーブレードの攻撃を受け、最後の一撃は腹に当たり、彼女はついに足場の岩ごと床に落ちた。
「この私が、こんな──」
マレフィセントは苦しげに胸を抑えながら後ろへ下がり、ついには別の空間へ姿が消える。逃がすものかと後を追えば、またあのスーツを着たリクが立っていた。
「助けてほしいか?」
そうマレフィセントに訊ねる彼の手に握られているものに驚く。
「リク!?」
「あれは──」
「そう、キーブレードだ」
ドナルドの発言に答えて、リクは持っていた黒い鍵を見せびらかしてきた。
「おまえのキーブレードとは異なり、これは人の心の扉を開く。心を解放された人間は──こうなる!」
言い終わる前に、突然、リクがマレフィセントの胸をソレで刺した。
「なっ──」
刺されたマレフィセントが、目をいっぱいに見開いている。リクはなおも剣を彼女に深く刺し続ける。
「心の扉をあけ放ち、闇に心を明け渡せ! おまえは闇そのものになるのだ!」
剣を抜くなり、リクの姿が掻き消えた。一方、マレフィセントからは今まで見たこともないほど濃い闇が立ち昇り始める。彼女は自分の両手を見つめながら笑い出した。
「これだよ、この力さ! 闇、真の暗闇──」
言いながらマレフィセントの姿が変わってゆく。冷酷な魔女から、漆黒の鱗をもつ黄緑の炎を吐くドラゴンへ──。
身体の大きさは地獄の番犬ケルベロスより大きいかもしれない。マレフィセントドラゴンは、これまで戦ったどの猛獣よりすさまじく、強かった。
その巨大さゆえにあちこち動きまわりはしないものの、その場で足を踏み鳴らすだけですさまじい衝撃派を発生させるし、近寄れば鋭い牙で噛みつき、ファイガブレスによる黄緑色の炎で焼きつくされ、鋭い前足のツメで八つ裂きにされる。退こうとすればテイルスピンの追い打ちがくるし、離れれば数えきれないほどのファイラボールを飛ばしてきた。
「もう、めちゃくちゃだ!」
あの知的の魔女とは思えないほどに暴れ狂うマレフィセントドラゴン。
辺り一面が黄緑色の炎に包まれ、炎の熱さにくらくらしながらも、仲間たちと連携してマレフィセントドラゴンを攻撃し続けた。
ビーストのマントの端が切り裂かれ、グーフィーの盾が煤だらけになり、ドナルドの頭の羽根がちょっぴりコゲたとき、やっとマレフィセントドラゴンの動きが鈍りだす。ビーストに体当たりされたとき、炎に咳き込むような仕草をしたのをチャンスと見て、キーブレードで頭をしたたかに打ちのめすと、マレフィセントドラゴンは天を仰ぎ、ついにベッタリ床に倒れこんだ。
「や、やった……!」
「倒したぞ!」
「僕たちの勝利だね」
世界を苦しめる原因だったマレフィセントを倒したのだ。
喜んでいる最中にも息絶えたマレフィセントドラゴンの身体はみるみる縮んでゆき、人型だったマレフィセントのマントが床のシミのように残った。
無惨な悪の親玉の最後にどこか憐みを覚えながら眺めていると、どこかへ消えていたリクが音もたてずに戻ってくる。先ほどの死闘をどこかで眺めていたようで、呆れたような目つきでマレフィセントだったものの側に立った。
「役立たずめ──」
鼻を鳴らすと、彼はつまらなそうに吐き捨てる。
「しょせん、ハートレスのあやつり人形か」
「なんだって!?」
ドナルドが叫ぶ。
「マレフィセントは、最初からハートレスに利用されていたのだ。そのため心の闇がふくれあがり、身を滅ぼした。愚か者がたどる末路だな」
そうして彼がマレフィセントだったものを踏みにじると、マレフィセントの痕跡は砂のように風に飛ばされ静かに消滅していった。
完璧にマレフィセントの存在が消えてしまったのを見届けたリクは、薄ら笑いながら再び闇の中に消えてしまう。
しばらくみんな押黙った。先ほどまでのマレフィセントを倒した喜びなどすっかり萎み、これまで積み上げてきたものが足元から揺らぐような、言い表せぬ不安が残された。マレフィセントを倒しさえすれば終わると思っていたこの戦いは、まだまだ終わらないのでは──。
「ソラ。先へ進もう」
静かに言うドナルドにハッと頷き、また礼拝堂へと戻ってカイリとフィリアを探すため城の探索を再開する。
エントランスで別れた時と明らかに様子が違っていたリク。いままでのリクは、知らない一面ばかりだとしてもそれでもリクだった。けれど、あのリクは──。背筋がぞっとするような嫌な予感に焦りながらも、それでも今は一刻も早く先へ進むしかない。