よく晴れたある日。フィリアたちは中庭にいた。今日は、外の世界に潜む闇を消すためにテラとアクアが旅に出る。
「二人とも、外の世界では、先ほどの教えを決して忘れるでないぞ」
「はい」
エラクゥスに頷いて、テラとアクアがこちらに来た。
「いいなぁ、二人とも。俺も外の世界に行ってみたい」
「フィリアとヴェンもすぐに行けるようになるわ」
「二人とも、土産は何がいい?」
「俺、流れ星がいい!」
「ヴェンったら……それは無理!」
「フィリアは? 何か希望はあるか?」
「私……いらない」
「えっ?」
「フィリア、お土産いらないのか?」
「遠慮しなくていいんだぞ?」
「だって、その分帰りが遅くなるでしょう? だからいいの」
これは二人に必要なこと。いくら寂しいからといって「行かないで」とは言えるわけがない。だからせめて、早く帰ってきてほしい。
頭に軽い重みが乗った。テラの手だ。
「フィリア、知ってるか? 外の世界は確かに遠いが、いつもこの世界の傍にいるんだ」
「遠いのに、傍にいるの?」
テラが頷いて上を見たので、つられるように空を見た。
「世界は光だ。俺たちが旅に出ている間、直接姿は見えないが、夜に見える星の光のどれかにいる」
「テラ……それってもう帰ってこないみたい」
「そうか……!?」
正直な感想を伝えると、テラが片手で頭をかいた。その隣でアクアがクスリと笑みを零す。
「旅立つ前に、フィリアに渡したいものがあるの」
「私に?」
そう言ってアクアが差し出してきたものは、いつも彼女が腕に着けていた鎧の装着装置だった。
「これ、アクアの……」
「私の分は今日マスターから新しいものを頂いたわ。お下がりだけど、よかったら受け取って。こっちはフィリアに譲るといいってマスターがおっしゃったのよ」
「……マスターが……?」
思わずエラクゥスを見ると、こちらに背を向けていた。エラクゥスにとって話したくないという意思表示なのはあの時から変わっていない。「照れてるのよ」と、アクアがそっと耳打ちしてきた。
「さ、腕を出して。着けてあげる」
言われるまま、左肩に着けてもらった。見た目より少し重い。ずっと憧れていたマスター・エラクゥスの弟子の証──アクアが大切にしているものを譲り受けたということも嬉しかった。
「うん、よく似合ってる!」
「ありがとう、大切にするね」
「すぐに帰って来るから、マスターとヴェンと一緒に待っててね」
「……うん。二人とも気をつけてね」
「テラ! 帰ってきたら勝負しよう!」
「ああ。約束だ」
言葉を交わし終えると、テラとアクアは鎧の装着装置を作動させ、キーブレードに乗って異世界に旅立っていった。
その日の夜。ヴェントゥスと二人で山頂にやってきていた。ここからは星空が良く見える。
「二人とも、今頃どんな世界にいるのかな?」
「きっと、この世界にはないものがたくさんある場所なんだろうなぁ」
果たして、どんな世界でどんな者と戦っているのか。この地で待つ身としては、無事を祈ることしかできないが……。
「二人は強いから……大丈夫だよね」
「ああ。絶対だいじょうぶだよ」
二人で草むらに寝転がって空を見上げた。テラは視界いっぱいに広がる星のどれかにいると言っていたけれど、多すぎて見当もつけられない。
「あっ、流れ星だ!」
キラキラと瞬く星を見つけてヴェントゥスが叫んだ。突然現れた流れ星は、数秒で視界の端から端までを流れて消えてしまった。
「綺麗……」
「アクアは無理って言ってたけれど、いつか捕まえられないかなぁ」
「あんなに速いよ?」
「俺、流れ星をもっと近くで見てみたいんだ」
体を横に倒しヴェントゥスを見た。その表情はとても楽しそうで、自分までワクワクしてくる。
「私も。流れ星、近くで見てみたいな」
「じゃあ一緒に捕まえようよ!」
「私に手伝えるかな?」
「もちろん! コレ、もらったろ?」
そう言いながら、ヴェントゥスが軽く己の左肩を指した。
「うん……!」
「あっ、フィリア。また流れ星だ!」
ヴェントゥスが空を指差す。フィリアは慌てて星を見上げ、流れてゆく光に目を細めた。
★ ★ ★
キラキラと瞬き、カクンカクンと夜空を跳ね回る一つの星。
普通の流れ星ならばまっすぐ流れすぐに消えてしまうはずなのだが、その星は輝きを残したまま、まるで吸い込まれるかのようにとある世界に落ちていった。
「…………またあいつか」
滝が流れる崖側に座っていたヴァニタスは、その光を見て苦く呟く。
あの光は、ヴェントゥスを通じて一度、レイディアントガーデンでは実際に見たことがある。あの時荒野で邪魔をしてきた男……ゼアノートに報告したところイェン・シッドの弟子だと分かった。
明日にはヴェントゥスとフィリアがこの世界にやってくる。もうすぐ全てが熟そうというときに、あの男の存在は目障りだ。
消してやろうかとも思ったが、あの男はヴェントゥスたちと多少なりと繋がりがある──利用できるかもしれない。ゼアノートに報告し、指示を仰ぐのが最善か。幸い、まだ時間もある。
ヴァニタスは立ち上がると、更に深い闇の中へと消えていった。