びくっと体が震えて目が覚める。視界に飛び込んできたのは平らな地面と真っ青の空。強い陽光に水の気配。ざんざんと音が鳴る崖側の道に寝転がっていた。
どうしてだっけ? ここはどこ? 疑問を浮かべると、芋づる式に記憶が蘇ってくる。前の世界から脱出していた途中にヴェントゥスとキーブレードライドから落ちて……おそらく次の世界に着いたのだ。
それにしても──変な夢。
前の時もそうだったけれど、キーブレードライドから落ちると奇妙で不気味な夢ばかり見る。
「……頭、ぶつけたのかな?」
むにゃむにゃ言いながら起き上がろうとしてみるも、重くて上手く動けなかった。加えて、地面の上なのにやけに暖かいし痛くない。まるで真冬のお布団に包まれているような……。
寝ぼけた思考のまま、特に広く暖かい背中側を振り向くように寝返ると、視界がヴェントゥスの寝顔に埋められた。
「ひぇっ──!?」
残っていた眠気が一気に吹っ飛ぶ。ワンテンポ遅れてあげそうになった絶叫を必死で堪えた。寝起きの不意打ちに、我ながらよく耐えたと思う。
ヴェントゥスの眠りは深いようで、こちらの身じろぎ程度では目はピクリともしなかったけれど、背と腰にまわっている腕の力が微かに強まった。抜け出そうとしたらさすがに起こしてしまうだろう。緩まるのを待つしかない。あの綺麗な瞳が瞼の奥なのはちょっぴり残念であるものの、抱きしめられているという密着状態の羞恥を僅かばかり和らげてくれたので、まだ気持ちに余裕を持つことができた。
「ヴェン。また、守ってくれたんだ」
異空の回廊の中で、自分とはぐれてしまわないように──。
むずむずとした気持ちに、口元が緩んできてしまう。あの時から妙な気遣いをかけるようになってしまったけれど、ヴェントゥスに守ってもらえることは、本当は、すごく嬉しい。礼を囁きながらその顔に手を伸ばし、触れる直前で振ってみた。反応がない。
まだ、起きない?
「もう、ちょっとだけ……」
望みのまま、ほんの少しだけ顔を近づけた。ヴェントゥスの匂いがして、鼓動と吐息が感じられる。心臓が強く脈打ち、眩暈がするほどに幸せだった。きっと他の誰とこうなったとしても、ここまで胸はときめかない。
顎を引き、彼の襟元に額を付けた。
「ヴェン……」
大好きで、大切で、ずっとずっと側にいて助けになりたい。それはマスター・エラクゥスにも、テラにもアクアにも同じこと。けれどこの腕の中を独占するのは、隣に立つのは、何年経っても自分だけであってほしいという願い。
……いつからだろう。たぶん、気づいた時よりずっとずっと以前から。
「……私ね、君のこと……」
「ティンカー・ベル!」
「待ってよー」
楽しそうな笑い声が聞こえてきて、顔を上げた。
声の主は子どもらしく、遠くない距離からいくつかの足音が近づいてきている。これは、さすがにヴェントゥスを起さなければ。
「起きて。起きて、ヴェン」
「……うぅん……」
「わっ……!?」
ペチペチ頬を叩いてみると、ヴェントゥスは不快そうに眉を寄せ──起きるかと思ったら、ますます強く抱きしめられた。恋慕を自覚したばかりの身には、いろいろと刺激が強すぎる。
「うぅ、苦しいよ。起きてってば!」
「…………」
ヴェントゥスは起こすのが忍びないほどに幸せそうな微笑を浮かべていた。けれど、人が来ているのだ。このままではこんな格好を──
「あっ、誰か倒れてるぞ!」
見られてしまった。
二人は側にやってくると、無遠慮に覗き込んできた。なぜかキツネとクマの格好をした少年たちだった。
「ねぇ、起きてる?」
「こ、こんにちは……」
キツネの格好をした少年に曖昧に笑い返す。恥ずかしい、恥ずかしい。
「何してるの?」
「これは、えっと……今、起きるところで、あっ」
クマの格好をした少年に答えながら起き上がろうとしてみるも、ヴェントゥスの腕に阻まれる。
「その子、動かないよ」
「まだ、寝てるから」
力なく頷いたとき、頭上に掌ほどの空飛ぶ光の集合体が現れた。よく目を凝らせば、金の光を散らす小さな小さな女の子──妖精だ。
「ティンカー・ベル!」
キツネの少年が呼ぶと、妖精──ティンカー・ベルが頷いて、ヴェントゥスの顔の前まで降りてくる。女の子が、ヴェントゥスの顔に。ぎょっと心臓が跳ねた。
「ねぇ、なにするの……?」
訊ねると、少年二人がニヤリと笑った。ティンカー・ベルが片足を後ろへ振り上げる。
「まさか」
「思いっきり蹴っ飛ばせ!」
止める間もなく、ティンカー・ベルの白い足が振り下ろされた。