山頂に戻り、石のベンチに腰かけると、温い風が頬を撫でた。
穏やかな空の下、ぼんやりと景色を眺める。結局、私たちはずっとこのままなのだろうか。
「とりあえず、マスターたちのケンカが収まるまで、ここにいよう」
「うん……」
山頂から見える城――もうすでに屋根が半分吹き飛んで、壁が穴だらけになっている。マスターたちの安否はもちろん、今夜寝る場所も心配だ。
「マスター、すごいな。俺もあんな技使ってみたい!」
「もう、ヴェンったら……このままだと私たち、元に戻れないかもしれないんだよ?」
能天気な言葉に軽く叱ると、ヴェントゥスが「ごめん」と苦笑する。強い者に憧れる気持ちは理解できるが、私たちの部屋が跡形もなく吹き飛ばされている点には、気がついているのだろうか。
「とにかく、私たちが安全に元に戻る方法を探さなきゃ」
「そもそも、どうして俺たちの心が入れ替わっちゃったりしたんだろう?」
「うーん……やっぱり、そこだよね」
最大の問題は、やはり原因。それさえわかれば、何か解決策を見出すことができるかもしれないのに――。
「それは無理だな」
私の思考に答えるように、知らない声がそう言った。振り向くと、私たちの背後に仮面をつけた少年が立っている。
「誰……!?」
「お前たちは、二度と元の体に戻れない」
「はぁ? どうして、俺たちが元に戻れないなんて決めつけるんだよ!?」
「俺たちが、今度こそ一つになるからさ」
「私たちが? どういう意味?」
ヴェントゥスと顔を見合わせて、少年の言葉に首を傾げる。「一つになる」とは、何かの隠語なのだろうか。
疑問を浮かべている私たちを見て、少年が仮面の下で軽く笑う。
「すぐにわかる」
そう言うと、彼はこちらに向かって手を差し出した。理解できない行動に警戒しながら見つめていると、彼の手に、鎖が絡んだキーブレードが現れる。
「この子も、キーブレードを……!?」
「――フィリア、下がって!」
「遅い」
少年はキーブレードを高く構えると、私たちに襲い掛かってきた。
「うわあっ!」
彼はまず、ヴェントゥスに向かってキーブレードを振り上げた。ヴェントゥスも自分のキーブレードで応戦するが、私の体のせいか、簡単に力負けして宙に舞う。
「ヴェン!」
「――次はお前だ」
草むらに倒れたヴェントゥスに駆け寄ろうとした時、耳元で声がした。
「え、わあっ!?」
腕を掴まれた途端、視界がぐるんと回転して――次の瞬間には、気絶しているヴェントゥスの隣でしりもちをついていた。
「いっ、たた……君、いきなり何するの!?」
じんとした痛みに呻きながら顔を上げると、少年がゆっくりとこちらに歩いてくる。
「俺を差し置いて、お前たちだけが融合するなんて許せないだろ?」
「だから、さっきから何を言って」
「マスターの命令に背くことになろうが、関係ない」
「ちょっと、話を聞いてってば!!」
返答の代わりに、少年のキーブレードが私の目の前に突きつけられた。よくわからないが、とても嫌な予感がする……!
「さぁ――融合だ!」
「えっ、なにこれ……う、ああああぁぁっ!」
私とヴェントゥス、そして少年が眩しい光に包まれる。とても強い力の中、私たちの心は交ぜられて、混ぜられて……そのまま、意識は真っ白になってしまった。
「――あああぁっ!」
目を開くと、水色の空と白い雲が目に飛び込んできた。遥か頭上を、小鳥が楽しそうに鳴きながら飛んでゆく。
さっきの少年は? 不思議な光は? 慌てて辺りを見回すと、破壊された跡などない、いつもの城が遠くに見えた。
何事もなかったかのような城を見て、私はやっと理解する。
「なんだ……夢、だったんだ」
思い切り叫んでいたせいか、喉が痛み、零れた声はいつもより低かった。
夢とわかると余裕が生まれるもので、とても変わった夢だったな、とおかしくなる。
「ヴェンは、まだ寝てるのかな?」
ヴェントゥスにも、先ほどの夢の話をしたい。そんな気持ちで隣を見ると、すぐ隣でヴェントゥスが――。
「…………あ、あははっ、まさか……そんなことがあるわけが……!」
言葉に反し、体が震え顔が引き攣る――私の側で眠っていたのは、どう見ても私の体。
ハッとして髪に触れると跳ねた短髪、少し足首が覗くズボン。
「う……フィリア、どうしたの……?」
叫び声に反応して、私の体が目を覚ました。眠たそうな瞳が、私を見て丸くなる。
「あれ――俺?」
「違う、違うよっ」
こんなこと、ありえない。
半泣きの声で、私は叫んだ。
「ヴェン。私たち、入れ替わっちゃったみたい!」
春のうららかな昼下がり。事件はまだ、始まったばかりである。
執筆:2011.2.1