ロクサスと一緒にトワイライトタウンに出かけようと闇の回廊に入ったのに、出た先は謎の部屋の中だった。目の前に扉がある以外何もないガランとした部屋。

「あれ、ここは?」

 闇の回廊を出した本人であるロクサスがきょとんと首を傾げたので、「どうしたの?」と訊くと、ロクサスは眉を下げた。

「いや、ちゃんと時計台に繋げたはずなのに」
「この部屋から出れば時計台じゃないの?」

 そうしてノブを回したら、ガチャガチャ音がなるだけで開かなかった。鍵がかかっている。

「ロクサス、キーブレードで開けられない?」
「それが、反応しないんだ。闇の回廊も開けないし……」

 キーブレードを構えた後、しょぼんと切っ先を降ろすロクサス。本格的にまずい場所に閉じ込められたのだと理解し、どうしようとオロオロした。

「アクセルとシオン、気づいて助けに来てくれないかな」
「『ここは、キスしなければ出られない部屋です』?」

 唐突にロクサスが読み上げる口調になったので彼の視線を辿ると、扉の上にご立派な額縁が飾ってあり、確かにそう書かれていた。

「キーブレードで開かないのに。いったいどういう仕組みなんだ……?」
「本当にキスで開くなら、誰かが見ているってこと?」

 疑いの眼差しで見上げるも状況は変わらない。どうしよう。闇の回廊も使えない場所が普通な訳がない。

「そもそもキスってなんだ? フィリアは知ってる?」

 ロクサスがポカンと言うのでギクッとする。ロクサスにバレているかは知らないが、彼に恋をしている身としては、どう答えたらいいものか。

「キスは、二人の口と口をくっつける行為──なんだけど」
「口と口を? どんな意味があるんだ?」

 言うべきか、言わざるべきか。説明した後にキスしたくないと拒否されたらつらすぎる。
 迷っている間に、ロクサスはなにをどう考えたのか「よし、やってみよう」と近寄ってきた。抽象的な説明のせいで勘違いさせてしまったかと、慌てて白状する。

「キスは好きな人とだけするんだよ」
「そっか。俺、フィリアのこと好きだから大丈夫だな」

 真面目な顔で好きと言われてドキッとするも、それは友達としてだろうなと感じる軽さだった。

「そうじゃなくて、本当に本当に大事で、かけがえのない人で、特別な人とじゃなきゃ」
「ああ。本当に本当に大事で、特別だ」

 キリッとした頭つきだが、その上にハテナマーク浮かべてる状態で言われても〜〜!
 そうこうしているうちにロクサスは至近距離まできていて、肩に手を置かれてビクッと体が跳ねた。顔が熱くなってくる。はわはわと慌てるも、この手を振り払えない。

「フィリアは俺のこと、好きじゃないのか?」
「それは……すごく好きだけど」
「良かった! それじゃあ、キスしよう」

 不安そうな顔で訊ねられて、答えた途端にパアッと笑顔になられたら断れない。やぶれかぶれな気持ちになって、私はロクサスのことが好きだし、ロクサスも嫌じゃないならもういいんじゃないかって結論に至り、それ以上恋愛感情について言うことを諦めた。

「わかった。する」
「おう!」

 ニコニコしたロクサスの顔が慎重に近づいてくる。ロクサス、まつ毛長い。綺麗な青い瞳。

「キスする時は、目を瞑って……」
「わかった」

 素直に目を閉じたロクサスを確認し、諦めてこちらも閉じる。すぐにふにっと唇が触れあって、数秒で離れた。
 本当にロクサスとキスしちゃった。心臓ばくんばくん、顔が熱い。

「なあ、フィリア……」

 ロクサスの唇の感触を思い出す余韻もなく、ロクサスは掴んだままの私の肩を離さないので不思議に思った。扉からはカチッと開錠の音がした。もう自由なのにどうしたのだろう。
 「どうかした?」とロクサスを見上げると、ロクサスは私よりも真っ赤な顔で、汗までかいている。ケロッとしてると思ったら、意外な反応に戸惑った。
 ロクサスは迷子の仔犬みたいな顔で言った。

「もう一回、してもいい?」
「え」
「すごく気持ちよかったから……ダメか?」
「えっ、あ。うん、いい、よ?」

 想定外の要求に慌ててしまって、よく考えもせず返事をしてしまったが、すぐにやっぱりちゃんと付き合ってないとダメだよねと考え直す。
 けれど、断るよりもロクサスとのキスの方が早かった。加えて、内容は先ほどの比じゃない。何度もちゅっちゅっと重ねてくるし、苦しくなって息継ぎが必要になって顔を背けたら、追いかけてきてベロリと唇を舐められるし!

「んっ、ロクサス、んん、まっ、んむ……」

 一回って言ったのに、いつまで何回するつもりなのか。次第に口の中に彼の舌が入ってきてかき回されたので、こちらは大混乱。こっちだって気持ちがいいし、息が苦しいし、足腰に力が入らなくなるしで、床に崩れ落ちてもロクサスも合わせて動くのでずっとキスされ続けるはめに。
 だめだめだめ、もうギブアップ! いろんな限界がきて、必死にロクサスの腕をペシペシ叩く。

「──あっ、ごめん。つい」

 やっとロクサスが正気を取り戻して離れてくれたが、いつもと違って強引で怖かった。それなのに、一方であんなに求められて嬉しいと思ってしまう。

 それから無事に部屋から脱出して、いつものようにアイスを食べる日常に戻ることができた。けれど、アイスを食べているとロクサスがジッと口元を見てくるようになって、すごく食べにくいし、意識すると恥ずかしい。
 きっと、またキスしたいのかな。シオンやアクセルともしようとか言い出したらどうしよう。
 あの奇妙で厄介な部屋のせいで、私がもんもんと考える日々は続き、

「え、俺がキスしたいと思うのはフィリアだけだぞ?」

 と言ってもらえたのは、それからもっともーっと後のことだ。




R4.9.4

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