古典的な手には気を付けろ / 千石清純
「ねえねえ君、もしかして一人?」
…は?なになになに、ナンパ?
つーか何、一人で喫茶店に居ちゃ悪い?
あ、いや悪いとまでは言ってないか。
でもなんかむかついた。
「そうですけど、」
なんてちょっと嫌味っぽく言ってみた。
するとヤツはパァーっと表情を明らめて私が座っていた席の前に図々しく座ってきた。
「じゃあさ、俺もちょうど今一人だからデートでもしない?」
「しないです」
おっとつい即答してしまった。
オレンジ頭のヤツは私の即答にかなりショックを受けているみたいだ。
ちょ、やめてその今にも捨てられそうな犬のような眼差し。
そんな眼で私を見るな、見るんじゃなあああい!
ほら周りの席の人や店員がこっちチラチラ見てるから、「あの男の子可哀想ー」と言わんばかりの眼で見てきてるから!
…もうわかったよ、すればいいんでしょデート。
「………デート、してもいいけど」
「…っしゃあ!そうと決まれば早く行こ!」
ど こ に だ よ !
私を一体何処に誘拐するつもりだ!
てか腕痛いから勢いよく引っ張んなコラ!
私は逃げねーっつの!
「痛い痛い痛い!もう痛いってば!……あ、此処にお代置いときます!」
私はテーブルにお代をバンッと置いて男に腕を引かれるがまま店を出た。
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腕を引かれて約3分、もう我慢の限界。
「離せ変態ゴルァアアア!」
「あだっ!」
堪忍袋の緒がついにぶち切れた私は相手をグーで殴ってしまった、まあこれでもう腕を引っ張られなくて済むからいいんだけど。
でも目の前のオレンジ頭はずっと頭を抑えてその場にしゃがみ込んでいる。
や、やばい。もしかしてやりすぎちゃったかな…?
「あ、あの、」
「いやー、いきなり殴るとか危ないでしょー」
「…スミマセン」
あー大丈夫みたいね、心配して大損した。
「そういえば君の名前、聞いてなかったね」
「そうですねー」
あ、なんかフラグ立った。
「教えてくれる?」
やっぱなぁああああ!
つか見ず知らずの変態に誰が個人情報を教えるかっての!
「すいませんさっき走ったせいで記憶が、」
「俺の名前は千石ねー」
「…そ、そうですか」
人の話遮って何のこのこ自己紹介してんのこの人。
「君の名前も、教えて?」
ムゥウウウ…
どうしようかなどうしよう、ほんとまじどうしよう。
てかそんな眼で見ないでええええ!
捨てられた仔犬みたいですほんとガチで。
その眼に弱いんだよ私は…っ!
しかたない、か。
「…ゆう」
言っちゃった、あはは。
「ん?ごめん聞こえなかった」
コノヤロオオオオオ!もうぜってー教えないからなあああ!
変態バカオレンジがっ!
私は今回のことで十分学んだ、古典的な手を使うヤツにろくな人間は居ないということに。