罰って言葉からしてもう怖い 雪男

「えー、では。前回の続きから始めます、テキストの21ページを開いてください」
「センセー、そこ昨日やったよ」

はぁ、と雪男は小さなため息をつき 「軽い復習も混えるんです」って呆れながらわたしに言った。

「ゆう、お前最近やたら雪男に食ってかかるよな」

後ろの席のわたしの方にくるっと身体ごと向けてくる燐。

「だってあの笑顔とかむかつくもん。威圧感とか半端ないし」
「だよなー可愛げねぇっつうかさー、兄としてはもうちょっとあいつには弟らしくしてほしいのに」
「そこ、私語はしないでください。兄さんとゆうさんは罰としてこのページの暗記を次の授業までしてくること」

ガタッと勢いよく立ち上がったわたしたちは目を大きく開いて雪男を見れば、
「「はぁぁぁあああ!!??!!」」
と口を揃えて嘆きの声を上げる。
絶望に暮れてる中横の席からくすくすと笑っているのが聞こえた、これは志摩だろう。

「はぁ、毎回2人にはやる気が全く感じられない。もう少し真面目に…」
「へっくしゅん!」

ゆうは雪男の小言を遮り大きなくしゃみをすれば雪男は顔を顰めた。

「ゆうさんだっ大丈夫?」

ハンカチを手渡してくれるしえみからそっと受け取り恥ずかしそうに頭を掻くゆう。

「あいつほんまに女かいな…」
「ちょ、坊っ!聞こえますよ」

勝呂が呆れながら言ったことに子猫丸は慌てて制止する。その横ではニヤニヤと口元を緩める志摩の姿が。

「ああいう自分を無理に隠さへんありのままを出してはる子ってほんまかわええわぁ〜、坊と子猫丸さんもそう思わん?」
「し、志摩さん!今はそないな事言うてはる場合やなくて」
「俺は全く思わんけどなァ。あないなくしゃみするか普通」
「あぁ坊まで…」

京都組が話しているのがチラッと聞こえて耳を澄ませていたゆうだったが勝呂が発した言葉が癪に障って思わず反応してしまう。

「へぇ?ということは勝呂のタイプって品のある女性?それとも私、オナラなんてしませんからタイプの不思議ちゃんが好きかな〜?」
「ちょっ、ゆうさん静かに!授業中で、」
「はぁ?何やねんいきなり。そないなこと言うてへんやろアホか」

雪男の言葉を遮って勝呂がゆうの言葉に食ってかかる。2人の間にはバチバチと火花が散り始め、その様子を慌てながら見る人やうざそうに呆れる人もいた。
まぁ授業中に2人が喧嘩をするのは非常に珍しい。何たって話すこと自体が珍しいからだ。

「ちょ、坊!落ち着いてくださいっ」
「そうですよ〜全く、授業中やで」

子猫丸と志摩が宥めに入るが勝呂はだいぶイライラしているようだ。

「分かっとるわ!最初に喧嘩売ってきたんあいつの方やろ!」

勝呂はあまりのイライラに2人にも当たり散らし始め教室内は不穏な空気。
しかし子猫丸と志摩もこうなった勝呂の扱いに慣れているのか、そこまで焦る様子もないし勝呂への返しが何となく上手い。

「……みなさん、そろそろよろしいですか?」

黒板の前で教科書を片手に今日1番の笑顔を顔に貼り付けた雪男がいつもより数倍低い声を出す。
勿論、その場にいたみんなの動きは止まりゆっくりと雪男の顔を見ればそっと席につき大人しく前を向くと、ようやく大人しくなった問題児に雪男は深い溜息をつき授業を再開させる。
けど、わたしは授業をする気分じゃなくなったからぼーっと頬杖をついてただ黒板を見ていた。
もちろん話なんて右から入って左から抜けて行っているから頭になんて何も残っていない。
と、チャイムが鳴りやっと雪男の授業が終わった。

「…じゃあ今日はここまで。最後駆け足になってしまいましたが復習は各自でお願いします。… あ、ゆうさん、ちょっといいですか?」

有無を言わさぬ黒い笑みでわたしを呼ぶ雪男。
ゆうは「はいはい」と言って立ち上がり、2人はそのまま教室の外へ出る。

「奥村センセー何ですかぁ体罰ですかぁ」

ゆうは雪男に舐めたような態度をとればそんな様子に雪男は呆れてため息をつく。

「まったく貴女はどうしてこうすぐ問題事を起こすんだ。もう少し教員の身になってくれ」

やれやれと頭を抱えながら呆れたように話す雪男。
わたしはそれをどうでもいいと顔に書いてあるんじゃないかってくらい上の空に聞いていた。

「へいへい、すいませんしたー」
「知識がなければ実戦すら出来ない。もう少し頭を使ってください」
「何よそれ、如何にもわたしが頭を使わずにただココに来て無駄な時間を過ごしてるみたいな言い方」
「僕にはそうにしか見えない」

鋭い雪男の目がゆうを捉える。
ゆうは雪男の目つきに少し怯むが、ポケットからある物を取り出し雪男の前に提示した。

「ごめんなさいね、頭が悪くって。さぁてと、コレ、どうしようかな」

ソレは以前任務で女装をした雪男の写真だった。
わたしはいつか脅しに使えると思いしっかりと残しておいたのだ。
すると雪男の眉がぴくっと動く。

「…そんなので僕を脅しているつもりですか?どうせみんな見ていたわけですし、知っているじゃないですか」

平静を装っている雪男にわたしは更に畳み掛ける。

「塾生になんて言ってないからね、雪男ファンクラブの方々に譲ろうかなーなんて?」

そう言った瞬間、雪男の表情から少し余裕が消えたような気がした。

「僕はそういうところに頭を使えって言ってるんじゃない。…貴女って人は」

雪男は溜息をつき、「僕の負けです」と言ってわたしの前に手を出してきた。

「ん?何この手」
「だから、僕の負けですからその写真は僕が預かります」
「いや、渡さないし。てか実はもう1枚渡してるんだよね」

最後に「へへっ」と付け加えて舌を出して笑って見せると雪男の表情が見る見るうちに険しいものに変わっていった。

「…おい、笑い事じゃねえんだよ」

今まで雪男の口から聞いたことのない低い声を出した雪男にわたしはびびり、固まる。
そんな2人の様子を塾生たちはこっそり隠れて見ていたらしい。初めて見る雪男の黒いオーラに息を呑む。


──その後、わたしは大量の課題が出され、雪男のパシリとして1週間こき使われた。