ヒーロー / 燐
「…あ、今日はなんか多いな」
目の前の小さな悪魔を手で払いながら歩くゆう。
わたしは他の子と違って悪魔が見える、そのせいで小さい頃から煙たがられていた。
「あら、あそこん家の子よ」
「まぁ〜陰気なオーラがぷんぷんね〜」
「昔からおかしな子だったわよね〜」
ほら、まただ。わたしが少し外に出て歩いただけですぐにこれ。
聞きたくなくても聞こえてくる近所の人たちの話し声。
その場を足早に立ち去り公園へ行く。
滑り台の上へ登りそこから辺りを見渡すゆう。
「はぁ…何でわたしだけ…」
「オイ…オマエ、ヒトリナノカ」
ゆうは声のする方へ顔を向けるとそこには大型犬のような姿をした悪魔が浮いていた。
「まぁ、1人かな。別に寂しくもないしいつものことだけど」
そっと俯きため息をこぼす。
「イイツラシテルナ、ウマソウダ」
「え、」
はっとして悪魔の方を向くと先程とは様子が変わり大口を開け、こちらに噛み付こうとしている悪魔の姿があった。
恐怖で滑り台から慌てて滑り降り走って逃げる。
後ろからは空をかけて追いかけてくる悪魔。
今まで襲ってくる悪魔はいなかったせいで完全に気を抜いていたゆうは急な出来事に息が上がり、路地を入ったところに身を潜める。
「…はぁっ、はぁ…なんっ、なの…」
路地の入り口、背後に警戒をしながら足を休める。
「…ナンダ、オニゴッコハモウオワリカ」
頭上からの声に動けなくなり冷汗が頬を伝う。
もうだめだ、食べられる。そう諦めた瞬間辺り一面が青い炎に包まれる。
「ギャアアァァァアァァアア、ナンダ…キサマ…!」
「キャァァっ!……あれ、熱く…ない」
燃えてしまうと思い身体を丸めるゆうは熱くないということが分かり身体をあちこち触る。
「ったく、危なかったな」
目の前に突然現れた制服の少年。
「し、尻尾…?」
目の前には黒くて長く先端がふわっとしている尻尾があり、興味からその尻尾をぎゅっと掴んでしまう。
「ひぎゃぁ!…っておいお前!助けてやってんのに何しやがる!」
「あっあっごめんなさい…!目の前に尻尾があったから…」
ごつん、とげんこつをされ涙目で頭を押さえるゆう。
「いいから下がってろ」
そう言われて物陰にそっと身を隠す。
青い炎の中にいる悪魔は相当苦しんでいる。
その悪魔に彼は持っている刀を突き刺し、呆気なく消滅させてしまった。
あまりの現実に開いた口が塞がらずふるふると震えているゆうに助けてくれた彼はそっと近づき、ニッと笑いかけた。
「あの…ありがとう」
「おう、どうってことないぜ。お前もアイツらが見えんのか?」
「う、うん子供の頃からずっと。そのせいで友達もいないし居場所も…ないの」
声が徐々に弱々しくなり消えていく。
そんなゆうの肩を彼が掴み満面の笑みを向けた。
「なら俺と友達になろうぜ!俺も、その、友達っていねぇからさ」
ぽりぽりと頬を掻き照れ臭そうに彼は言った。
その言葉が嬉しくて嬉しくてゆうの目からは大粒の涙が溢れる。
「おっおい、泣くなって!俺何か悪いことでも…」
「ううん、違うの。友達になってくれるって言ってもらえたのが凄く嬉しくて」
わたわたとしている彼にゆうは泣きながら満面の笑みを浮かべた。
それを見た彼もニッと笑いゆうの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「俺は奥村燐!今から塾に行くけどお前も来いよ!おもしれーやつがいっぱいいるぜ」
そう言って燐はゆうの腕を引いて走る。
急に走り出すせいでバランスを崩しながらも「うん、」と言い燐に腕を引かれながら後ろを走る。
これがわたしと燐のはじめての出会い。