オレンジ / ラクサス

昼から酒の匂いが漂うギルドのカウンターの一角でひたすらフルーツを頬張る1人の女の姿があった。

「っっっうまい!この時期のオレンジって一度食べると止まらないよね〜!」
「あらあら、指先が黄色くなるまで食べてるなんて本当にゆうは食いしん坊ね」

ふふっ、なんて笑みを浮かべてミラはゆうを見つめる。

「仕事先でたまたまいっぱい貰っちゃってさ〜1人で食べきれないと思ってギルドに持ってきたけど案外これならいけそうかも」

はい、あーん、とオレンジをミラの口に運ぶゆう。

「あ〜!いいなぁわたしも食べたーい!」

リサーナがひょこっと現れ羨ましそうに2人を見る。

「いいよリサーナもあーん、」

ゆうが差し出したオレンジをぱくっと口に入れたリサーナはオレンジの美味しさに足踏みをする。

「んん〜美味しいこのオレンジ〜!どこの市場で買ってきたの?」
「ううん、仕事先で貰ったんだ〜!いっぱいあるから食べて食べて〜」

リサーナは子供のように、わーいと喜びオレンジの皮を剥く。

「あら、ラクサスがこんな時間にギルドにいるなんて珍しいわね」
「仕事が早く片付いたんでな、次の仕事を取りに来た」

真昼間からギルドにきたラクサスをみんな物珍しそうな顔をして見ている。
もちろんわたしもそのうちの1人。

「ラクサス久々だね〜最近仕事頑張りすぎなんじゃない?」
「はっ、お前は相変わらずこんなところで油売ってんのかよ」
「別にいいじゃーん、明日からグレイたちと仕事だからその為の休養中なの」

べーっとラクサスに舌を出してやると鼻で笑って横に座った。
昔っから全く変わんねーな、なんて嫌味っぽく言ったと思ったらべちっとデコピンを食らわせてきた。

「ったぁい!…ほんとラクサスは昔から変わらないよね、乱暴なところとか」
「ガキに言われたくねーな」

デコピンされたところを手で押さえ涙目でラクサスを睨む。

こんなやりとりをしていたせいかさっきまで集まって話していたはずのリサーナとカウンター越しのミラがいなくなっていた。

「ん?なんだよこの大量のオレンジ、これ以上丸くなりてぇのか」

オレンジを手に取りけらけらと笑う。

「これ以上って、わたし元々太ってる方じゃないと思うんだけど!?てゆーかラクサスだってなぁに?筋肉むきむきになってスーパーマンにでもなる気〜?」

ぴしっとラクサスのおでこに怒りマークが浮き上がったのがわかる。
そして持っていたオレンジを力任せにぐちゃっと潰してしまった。

その飛び散ったオレンジの汁がゆうの全身へと飛ぶ。

「ちょっ………何すんのばかなの!?」

身体に飛んだ汁をカバンの中のハンカチで拭いていく。

椅子から立ち上がりゆうに近づくラクサスにわたしは気付かなかった。
気付いた時にはラクサスの顔はわたしのすぐ横にあって、

「…悪かったな」

頬についたオレンジの汁を舐めてその場を離れて言った。

突然のことに頭が混乱をしていてまともな答えも出てこなければそのまま動かずにいた。

わなわなと舐められたところをただただ手で押さえ赤くなっているであろう顔をゆっくりと下へと向ける。


「…まぁ彼奴は不器用なやつじゃからのぅ、大目にみてやってくれ」

どこからともなく急に現れカウンターに腰掛けているマスター。

「マっ、マスター!?いつのまに!?…不器用も何も舐めなくても手で拭ってくれたらよかったのに」

それを横で聞いたマスターが、

「こりゃラクサスも苦労するのぅ」

と笑ったのはゆうには聞こえていなかった。