酔い / ロキ

わたしは今、BARのカウンターの端っこに座ってお酒を飲んでいる。
この落ち着いた店内の雰囲気に心地よいお酒の香り。

どうしてわたしがここに"1人で"来ているのかと言うと、1時間ほど前…









〈 1時間前 妖精の尻尾のギルド 〉

「ねえルーシィ、いつからロキが星霊だって気付いてたの!?」
「ん?あー、それはロキの意味深な言動かな」

い、意味深な…言動…?
もしかして2人って…

「どぅえきてるぅ〜〜??」
「ちょ、ちょっと!何あんたまで巻き舌風に言ってんのよ!てかデキてないから!またみんなが変に勘違いしちゃうでしょ!?」

わたしとルーシィはむむっと見つめ合った後、ぶははっと大声で笑う。

「ほんっとあんたとは気が合うわ〜、一緒にいて楽だしこういう関係小さい頃からずっと憧れてたの!」

少し頬を赤らめ照れているのかもじもじしながらルーシィはニッと笑いかけてくれる。
それにゆうも釣られてニッと笑って返す。

「おや、美しいレディが2人で何をしてるんだい?」

急にわたしとルーシィの肩を抱き寄せキラキラなオーラを放つ1人の男性(?)が急に現れる。

「ちょっとロキ!また勝手に出てきて!」
そう言ってルーシィはすすっと腕の隙間から抜け出す。

「ほら、ゆうの事も離してあげなさいよまったく」
ルーシィはやれやれと呆れたような顔をしている。
けどわたしはそんな状況ではない。
恥ずかしさと緊張に胸がはち切れそうだ。

だってわたしはずっと、ロキの事が好きだったから。

女にだらしないのだって知ってたし毎日色んな女の人といるところだって見てた、でも星霊界に戻ってオーナーがルーシィになってから丸くなった気がするんだよね。

少しだけだけど。

「ゆう久しぶりだね、元気だった?少し痩せた感じするけどちゃんとご飯食べてる?よかったら今日僕とディナーでもどうかなっ」

そう言ってロキはゆうの頬に手を添える。

ロキのウインクと行動に鼻血が出そうになる。
それほどわたしは彼に惚れているんだ。
星霊に戻った今でもずっと。

「だ、だだ大丈夫っ!ご飯もちゃんと食べてるしっ」

恥ずかしさでわたしはロキの腕を払ってそのまま勢いでギルドを飛び出した。
「あーあ、あんたのせいよ〜。ほら、ちゃんと責任とって探して来なさいっ」
ルーシィはロキの背中を押してゆうを探してくるよう言う。
ロキは わかったよ と言ってゆうを追ってギルドをでる。








と、今に至るわけで。
ギルドを出てから街を彷徨っていてたまたま入ったこのBARで気持ちの整理と心を落ち着かせている最中だった。

「はぁ〜、ねえマスターもっと強いお酒ちょーだい」
「お嬢ちゃんちょっと飲み過ぎじゃないのかい?これ以上飲んだら身体に良くないよ」
「いいの〜人には忘れたい記憶だって、忘れたい感情だってあるじゃない。今だけでいいから忘れたいの」

悲しそうな表情を浮かべ、マスターは小さく頷き新しいグラスをゆうの前に置いてくれた。

「でもねお嬢ちゃん、酒は飲んでも呑まれちゃいけないよ」

マスターの言葉を聞いてグラスを手に持ち、カクテルを口へと運ぶ。

カクテルがゆうの喉を通ろうとした寸前で、

「んんっ!?」

カクテルを口に運んでから飲み込む瞬間、急に横に来た人がわたしよりも低い体勢でキスをしてきたんだ。
含んでいたカクテルは相手の口内は流れていきわたしの口内は水分を失った。

急な事と酔いで全く思考が働かない。
視界も店の暗さと酔いで眩んでいる。

キスをしてきた相手がゆっくりと離れていき口を開いた。
声を聞いた瞬間相手が誰なのかがわかりわたしは酔いとは別に顔を赤らめる。

「こんなところで、こんな強いお酒を飲んで、君は本当にイケナイ子だね」
ゆうの頬をそっと撫で愛おしそうな表情を向ける。

「な、んで…?」
「君が急にギルドから出てっちゃうから追いかけてきたんだよ。でもこの店でお酒を飲む君を見ていたらあまりに美しくて声かけるのを忘れてしまってね」

追いかけてきてくれた嬉しさよりも、恥ずかしさがこみ上げてきてロキの顔が上手く見られない。

でもどうしてあんなことしたの?わたしが女だから?女なら誰でもやってたのかな?
ふつふつと不安と悲しさもこみ上げてきて気が付いたらその感情がわたしの瞳を伝っていた。

その涙をロキは指ですくい、ぎゅっと抱き締めてくれる。

「僕は君だから追いかけて来たんだよ。それに君だからキスをした。僕は星霊界に戻ってしまったけど今でも君のことが好きなんだ」

彼の一言が、どんなに心に響いたか。どんなに救われるか。

「…わたしも、わたしもずっとずっとロキのことが大好きだった。…ううん、今でも大好き」

ロキはゆうの頭をそっと優しく撫でる。
ずっと伝えたかった言葉をやっと彼に伝えられた。

「この関係はみんなに秘密だねっ」

ロキに涙でぐしゃぐしゃな顔をへへっと笑わせながら向ける。

これがわたしとロキと新しいスタートとなる。

魔導師と星霊、これから苦難と立ち向かって2人でがんばろうね。

ルーシィにも後で色々と話さないと、ねっ。