幸せな時間 / ナツ・グレイ

「あ〜もうこんなに暗くなっちゃったな〜。今日はギルドに寄らないでそのまま帰ろっと」

朝早くからの仕事で夕方には帰れるはずだったのだが仕事を終えた帰りに列車を乗り間違えるという失敗をしてしまったゆうは大幅に帰るのが遅くなってしまった。

しかし住んでいるのは寮ではないから他の人に迷惑をかける心配はない。

「朝早かったからさすがに眠いな〜」
目をこすりながら鍵を開けて扉を開く。

「んん〜ただいまわたしぃ〜!」
「おっ、今帰ったのか。遅かったな」
「ってここわたしん家ー!??!!!」

扉を開くとそこにはソファに座って寛ぐナツの姿があった。
びっくりして部屋の番号を確認する。
当然わたしの部屋。

どうしてナツがここにいるわけ!?
てか鍵かけてたのにどうやって入ったのか…。

「ナツ一体どっから入ってきたわけ?鍵かけてなかったっけわたし…」
「鍵?んなもん最初からかかってなかったぞ」

ふぇっ!?じゃあ昼間ずっと開きっぱなしだったってこと!?待ってよ〜〜泥棒とか入ってないよね!?

「で、でもわたし帰ってきたとき鍵開けて入ってきたんだけど…?」
「それなら俺が入ってからかけたからな」
「あはは…お気遣いどーも…」

朝早くからの仕事の疲れと変に気が抜けたせいでその場にへたり込むゆう。

「おい大丈夫か?腹でも減ってんじゃねーのか?」
「ナツじゃないんだからそんなわ…」

ぎゅるるるるるるるる

否定しようとした側から物凄い音がお腹から鳴った。
なんだかんだお昼にパンを2個しか口にしてなかったしそりゃお腹も空くよね。

「…ぶっ、ぶははははっ!お前の腹やべー落としたぞ今!くっはは、笑い止まんねー!」

ナツはお腹を抱えながらずっと笑い転げている。
いやまぁ確かに年頃の女の子が出すお腹の音ではないかもしれないけどそんなに笑う?!
オーバーじゃない!?

「し、仕方ないでしょ!今日一日まともにご飯食べてなかったんだから!」

冷蔵庫に何かなかったっけ?と思いながら冷蔵庫の中を漁る。
…あれ?そういえば昨日貰って今日の仕事のご褒美に食べようと思ってたミラさんの手作りプリンがないぞ…。
でも確かに1番上の段に置いてたはずなのに。

わたしはふと思いナツの方を見る。
じーーっと見るとナツの口の横に何か白いものが付いているのが見える。

「…ねえナツ、口の横に何かついてるよ?」
「ん?あぁこれか。さっき冷蔵庫開けたらプリンあったから食ったんだ。すげー美味かったぞ!」

……やっぱり犯人は…

「ナツこのやろぉぉぉおお!!わたしが楽しみにしてたミラさんお手製のプリンをよくも食べてくれたな!!どうしてくれんのよ!!!」

「なっそんなこと言われても知るかよ!?そんなに大事ならとっとかねーで食えばよかっただろ!」
「ちょ、人ん家のもの勝手に食べておいて逆ギレ!?」

むむむって睨み合う2人。
呆れてその場から離れて机の椅子に座るゆう。

「またミラさんにお願いして作ってもらうからいい。でももう勝手に食べないでよ、食べるならわたしがいるときにちゃんと確認すること!」
「へいへい」

ナツは納得のいかないようでぶーっと口を尖らせている。
何故ナツの方が納得してないかわたしには分からないけどね!?
どっちかと言ったらわたしの方が納得いかないからね!?

「で、ナツわたしに何か用があって来たんでしょう?」「そうそう、忘れてた。これミラにゆうん家まで届けてくれって頼まれてたんだ」

そう言ってどこからかおっきな弁当箱を取り出す。
風呂敷を広げて弁当箱の蓋を開けると、中には美味しそうなおかずやおにぎりが入っていた。

「最近お前が仕事忙しくて全然ギルドにも来ねぇし飯もまともに食ってねーってルーシィから聞いた。みんな心配してんぞ」

みんな…みんなに心配かけてたなんて知らなかった…。
確かに最近金欠で仕事ばっかりだったけどギルドに顔出さないとこんなに心配かけてしまうんだ…。
気をつけないと!

「そうだったんだ…ごめんね、わざわざ届けに来てくれてありがと!こんなにいっぱいわたし食べきれないから一緒に食べる?」
「俺も食っていいのか?」
「もちろん!だってわざわざ届けてくれたんだし!」

へへっ2人で笑い合う。

あー、こんな時間久々だ。
少し仕事は休んでギルドでゆっくりしようかな。

「よしっ食べよ!いっただっきまぁ…」

バンッッ
「ゆうが帰って来てるって!!」
「きゃぁぁああ!!?」

おにぎりを手に持っていざ食べよう、と口に運んでるときいきなり部屋の扉が勢いよく開いた。
あまりの急な出来事と音にびっくりしておにぎりを落としそうになる。

「何だよクソ炎もいたのかよ」
「あぁ?てめーここに何しに来やがったんだよクソ氷」
「ちょっここで喧嘩しないでよ〜〜!!」

一触即発といった感じに顔を合わせたらすぐ喧嘩腰の2人。
わたしの部屋に来たのはグレイだった。

「グレイは一体何しに来たわけ!?お願いだから喧嘩するなら外でして!!追い出すよ!!」

わたしの言葉に2人は睨み合いながらもゆっくりと離れる。
安心してホッと一息ついてグレイを見る。

「いや…ミラちゃんからお前が最近ギルドに来ねーって聞いたから俺が仕事行ってる間にギルド抜けたんじゃねーかと思って」
「いや抜けてたらミラさんそんな反応ではないと思うけど…」

ほんとグレイは人の話聞かない上に理解力もない。
こういう行動派なところはナツに似てるんだけどなぁ。

「とにかく2人ともありがとね?会いに来てくれて!元気でたよ。少し仕事休んでギルドに顔出そうかなって思う」

へへっと笑うと2人は口を揃えて、
「「お前と仕事いこうと思って待ってたんだよ」」
と言ってきた。

てか何でこの2人が??お互いが同じ仕事したくないだろうに。

「珍しいね、2人が同じ仕事なんて。でもどうして、わたしも??」
「いやだってよー…この仕事実はエルザも一緒で…」
「あ、わたしそういえば別の仕事があったんだ」

エルザ、と聞いた瞬間やばい予感がして誤魔化す。
2人の顔は段々と青ざめていき必至にわたしに縋り付いてくる。

それ程エルザと3人での仕事が怖いんだな…。

「報酬の分け前を増やしてくれるなら考えてあげてもいいけど〜?」
と言ったら2人の目はキラキラと輝き始めわたしはもうやっぱ無理なんて言えなくなってしまった。

「まじで!?言ったな!?忘れんなよ!ぜってーだからな!」
「お前が来てくんねーと俺らが色々と大変だからな…ホント助かる」

そして何故かこの3人でミラさんのお弁当を食べ、外が明るくなるまでそれぞれが行った仕事の話やギルドのみんなの話をした。

さすがに疲れていたわたしはソファに寄りかかって寝てしまった。
そこからの記憶はないけどすごく温かかったのは覚えてる。

きっと3人で肩を寄せ合って寝てたんだろうな。