MATSURIへ行く前/二階堂大和

夏が来た。
夏のイベントといえばやはりお祭りだろうか。
今日はそのお祭りの日、たくさんの出店が商店街に並ぶ。
わたしは子供の頃からお祭りが大好きで、食べ物の屋台を色々回って食べ歩くのが毎年恒例だった。

…けど、今年はいつもと違う。今年の春、わたしは小鳥遊事務所の所属となり活動を始めたため自由な行動は控えなくてはならない。

活動といってもまだ映画やドラマの脇役をさせてもらっているだけで主演の仕事はまだしたことがない。
特別仕事が忙しいわけではないため日程的には祭りには行ける、けど人目があるから目立つような行動は避けなくてはならない中でいかに祭りを楽しむか。

そんなことを薄っすらと考えながら、事務所の空いている個室で出演する映画の台本読みを始める。
役としては主人公のクラスメイト役なのでセリフは多くないが動きが多いため、自分が動くところを細かくペン入れをしながらチェックしていく。

「…あれ、その台本って“転校生”のやつ?」
「っっんはぃっ!」

台本読みに集中していたため後ろのドアが開いたことにも気付かず、急に声をかけられたため肩をビクッとさせ慌てて声のする方を向くなまえ。

「あはは、ごめんごめん。そんな驚くなんて思わなかったからさ、悪かった」

「に、二階堂さん〜〜寿命が縮まったじゃないですか〜〜」

「だからごめんって」

謝りながらへらへらと笑う二階堂大和。急に部屋に入ってきた張本人である。

「お仕事はもう終わったんですか?」

「おう、それよりその台本があるって事はあんたもその映画に出るんだよな?」

「えっ、あんたもって…もしかして二階堂さんも!?」

「いやいや何驚いてんだよ、お兄さん一応主演なんですけど」

なまえは目を丸くして二階堂を見つめ、そんな様子を面白そうに笑う二階堂。

「わたしがこの台本を渡された時はまだ主演女優さんの相手役が決まってない時だったので…まさか二階堂さんと同じ現場だなんて思ってなかったです」

「お兄さんがいるから分かんないことがあったら遠慮なく聞いてくれ。しかしあんたと歳そんな変わんないのに俺が先生役であんたが生徒役かー」

「二階堂さんが一緒なら安心ですね。今度時間があるとき台本読みご一緒してください!」

「おう、いいぜ。…あ、そうだ、今日から近くの商店街で祭りやるって知ってたか?」

二階堂は思い出したかのようにポケットから祭りのチラシを出して差し出してきた。

「そーーーーーなんですよっ!わたしこのお祭りすごく行きたくて!…でも、その話をさっきマネージャーとしてたら人の多いところに行くのはタブーだって。まぁそうですよね、もう一般人じゃなくなったわけですし」

差し出されたチラシを受け取って食い気味に話すが、次第に落ち込みを見せる。

「まぁ〜あんたのマネージャーもあんたの事を心配して言ったことだろうし、そんな行きたいならお兄さんが連れて行ってやろうか?」

「んぇっ!!??!!?」

二階堂の発した言葉に驚いて変な声をあげてしまうなまえ。

「たぶんマネージャーが言いたかったのは1人で行くのは危険だって事だろ?それなら人数集めて行けば大丈夫って事じゃねぇか。ちょうどウチのメンバーのミツとナギも行きたいって言ってたし」

「いやいやいや!逆に目立つというか…!今大人気グループIDOLiSH7のメンバー3人と出店を回るなんて大勢の人に囲まれちゃいますよ!」

「大丈夫だって、しっかり変装すりゃバレないだろ」

へらへらとあっさり話を進める二階堂になかなかついていけないなまえの頭の上では天使と悪魔が葛藤をしていた。

「で、どーすんだよ?行きたいんだろ?早く決めないとお兄さんの気が変わっちゃうぞ」

「んっん〜〜〜〜でも〜〜〜〜行きたいですよ!行きたいんですけどもし皆さんが危険な目に遭ったらと思うと…」

「そんな心配しなくていいから、俺もミツも成人してるしあんたも今年成人だろ?ナギだってふらふらどっか行くような奴じゃねぇから安心しろって」

二階堂はぽんぽんとなまえの頭をそっと撫でて落ち着かせる。

「……本当に、いいんですか?」

「はい、いいんです」

「えと、じゃあ…よろしくお願いします」

なまえは二階堂に深く頭を下げる。

「やっと折れたのかよ。それじゃとりあえず変装して事務所の玄関前集合な」

そう言って二階堂は手をひらひらとさせながら部屋を出て行った。

「…わたし、今年もお祭りに行けるんだ」

そう呟いて小さくガッツポーズをした。

「早く準備しないと二階堂さんの気が変わっちゃうっ。急げ〜〜」

慌ただしく部屋を後にするなまえ。
扉が開けっ放しの空室のテーブルには台本やらペンが散らばったまま残されており、たまたま通りかかったなまえのマネージャーがため息をつきながら片付けたのは言うまでもない。