雨/逢坂壮五
「…あ、雨……」
そういえば朝の天気予報で確か今日は一日晴れ、って言ってなかったっけ。
まったく、天気予報なんてアテにならない。
あーあ、せっかくおしゃれして出てきたのにこれじゃ台無しだね。
今日は半月ぶりに会える日だったのに。
時間潰しで寄ったカフェの店内でぼんやりと外の様子を見てため息をつく。
連絡はまだかと何度も携帯を見るがまだのよう。
だいたいこの時間には仕事が終わる、って教えられた時間はとっくに過ぎていた。
「時間通りだったら雨が降る前に会えたかもしれないのに」
雨の強さは次第に強くなり、外を出歩く人が減ってきた。
〜〜〜♪
「…もしもし。お疲れ様」
『凄く待たせちゃったよね、ごめん。今終わったところなんだけど、さっきスタッフさんに今大雨が降ってるって聞いたんだけど大丈夫?』
「うん、まだカフェの中に居たから雨には当たってないよ。でも実は傘忘れちゃってカフェから出れないの」
『もしかして僕に会うのがそんなに楽しみだった?…僕は凄く楽しみだったよ、だから早く仕事を片付けたかったけどちょっと収録が押しちゃって。この埋め合わせはまた今度させて。とりあえずなまえさんのいるカフェまで迎えに行くよ』
「壮五さんありがとう。スタジオ近くの"after the rain"っていうお店だよ」
『うん、分かった。今から向かうから待っててね』
壮五は言い終わった後すぐに電話を切った。
通話終了画面を見て思わず溢れる笑み。
なまえはまた窓の外を見る。
そのままぼんやりと空を眺めてどのくらいの時間が過ぎただろうか、1分ですら物凄く長く感じてしまう。
「………え、」
ぼんやりと外を眺めていたなまえは目の前の出来事に目を丸くし、慌てて会計を済ませ外へ出た。
「…あ、ごめんね。お待たせしました。1秒でも早く君に会いたくて走ってきちゃった」
「壮五さん風邪ひいちゃう!早くあったかくしないと!……あっタクシー!乗りまーす!」
びしょ濡れで微笑みながら髪の毛を掻き上げる仕草、きっとドキッとするんだろうけどわたしは今それどころではない。
一刻も早くどうにかしないと、と思い壮五の腕を引き通りかかったタクシーを拾って自宅へ向かう。
タクシーの中で壮五にハンカチを渡すがそのハンカチはすぐにびしょ濡れになり使い物にならなくなった。
無言の車内が続き、壮五の方をそっと向いてなまえは口を開く。
「…窓の外見てたら急にびしょ濡れの壮五さんが現れたから凄くびっくりした」
「あははごめんね、環くんが傘忘れちゃったから僕の傘を渡したんだ。カフェも近くだし傘がなくても大丈夫だと思ったんだけど、思ったより雨が強くてね」
なまえの自宅にタクシーが着き、2人は急ぎ足で中へと入る。
壮五の背中を押し、バスルームへと連れて行く。
「後でバスタオルと壮五さんが着れそうな部屋着持ってくからシャワー浴びてて!」
「あ、うん、ありがとう。なまえさんはシャワー浴びなくていいの?」
「わたしは全然濡れてないから大丈夫!いいから早く体あっためて!早くしないと脱がすよ」
強制的に脱がそうとすると壮五さんは顔を赤くした。
「なっ…!女の子に脱がされるのは、その、恥ずかしいから」
「なら大人しく入ってください」
なまえはクローゼットへバスタオルを取りに行く。
シャワーの音が聞こえるのを確認してからバスタオルと部屋着をそっと置いて壮五が戻ってくるのをリビングで待つ。
「……雨、まだやまないんだ」
部屋に雨音が響く。やむことを忘れてしまったかのように降り続ける雨。
でも、不思議と今日の雨は心地が悪くない。
「…シャワーありがとう、あと部屋着も」
「おかえり。雨、やまないね」
なまえの座っている隣に腰を下ろして窓の外を見る壮五。
「…そうだね、君は雨が嫌い?」
「子供の頃は嫌いだった、でも今は嫌いじゃない」
「僕も同じかな。今日はこの雨が僕の渇いた心を潤してくれるみたいだ。それに、なまえさんの見たことのない表情が見れたしね」
くすっと笑う壮五に小さく溜息を吐く。
「もうっ、壮五さんは芸能人なんだよ。体調管理気をつけないとなのにあんな…!」
「さっきも言ったけど、1秒でも早く会いたかったんだ。スタッフさんに傘を借りてたら遅くなっちゃうし」
「そうだけど…!……でも、わたしもあんな壮五さん初めて見たから、その…嬉しかった」
そのまま2人はそっと肩を寄せ合い目を閉じ、雨音に耳を傾けた。