恋哀


わたしたちの出会いはこうでした


瀬川ゆう 24歳
職業:製造業 工場勤務

某日夕方、定時まであと1時間。
ただただ毎日同じことの繰り返しの日々を送っているわたしの唯一の楽しみは仕事終わりのお酒、アニメ鑑賞。
一刻も早く家に帰り酒を浴びる、定時ダッシュの準備はいつだって出来ているんだ。

あと50分。

あと40分。

あと30分。

もう少し、あと30分で帰れる。今日は何のアニメを見ようか。思いを馳せながら残りの仕事を片付ける。


ドォォォォオオオン!!

大きな爆発音と地鳴り、工場内が激しく揺れ物が落ちる。
響く女性社員の叫び声、非常口への誘導をする男性社員。

「早く外へ出ろ!!工場が崩れるぞ!西棟で爆発があった、火の手が回る前に早くここから離れろ!」

「部長!こっちの通路はダメです!天井が崩れて通れません!窓から出ましょう!!」

誘導されるがままみんなに着いていくがアニメの見過ぎなわたしは非常にこの状況に興奮をしていた。

きっとここでヒーロー的なのがやってきて助けてくれる、そしてわたしとそのヒーローは恋に落ちる!
これでしょ。

なんて、呑気に考えていた。

けど現実は違った。

「お…おい、何だあれ!」
「きゃぁあああ!!嫌!こっちに来ないで!!」
「化け物だああああ!!やめろ!来るな!…あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ぐしゃ、と1人の男性社員が未知の生命体に踏み潰された。床には大量の血液が流れてくる。

その場にいた全員、その瞬間を目の当たりにし恐怖に支配される。
あちらこちらへ逃げる者、怯えてその場に立ちすくむ者。

わたしは後者だった。

逃げてもきっと捕まる、そしてあの人のように殺されてしまうんだ。

未知の生命体は1体ではなかった。仲間を呼んだのかぞろぞろとやってくる。
わたしの他に動けずにいた女性社員たちは化け物の放つ光線に焼かれ、また他の者は鋭い爪で引き裂かれる。


自分以外の人間が次々に殺されていく現実に恐怖で声も出ない。


…あーぁ、見たいアニメまだいっぱいあったのにな。
今日はレモンサワー飲んで転生もののアニメ見る予定だったのに。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

1体の未知の生命体はのそりのそりとこちらへ近づいて来る。
生きることを諦めていたゆうは逃げることもせず、ただその瞬間を待っていた。

未知の生命体はすぐ目の前まで来た。終わったな、そう思いわたしは目をぎゅっと閉じる。


「…お、いで」

「………え?」

……、……今何か言った…??

ギィィアアアアアアッ

悲鳴のような声にゆうはそっと目を開け顔をあげると、

「…おっと、大丈夫?お姉さん」

1人の青年が目の前に立っていた。
先程まで目の前にいた未知の生命体は倒れている。

「やっと生存者見つけた、とりあえずここから離れよう」

声の本人はゆうの手を掴み立ち上がらせるとそのままお姫様抱っこで担ぎ工場の外へと連れ出す。

「…よく聞いて、お姉さんの知り合いはみんなネイバーによって殺された。この工場ももうダメだ。…1人でも救えてよかった」

外に着き下ろしてもらったと思ったら両肩を掴まれ、信じ難い言葉を耳にするゆうは固まる。
声も出ない、何か言わないとと思っても先程の恐怖に続き自分しか助からなかったという現実が受け入れられない。

「いつまたあのネイバーが街を襲ってくるかわからない。それにお姉さんは今混乱していると思う。だからとりあえず俺の部屋に行こう、この工場を襲ったネイバーの話を詳しく話すよ」

仲が良かった社員さん、優しかった工場長、社員のために頑張っていた社長、みんな一瞬にして失った。

そして自分だけ助かってしまったという罪悪感。

全てが一瞬の出来事で未だに現実が受け入れられないでいる。

「大丈夫、お姉さんは俺が全力で守るから。…もう怖くないよ」

ぎゅ、っと抱き締められた。
あったかい、抱き締められたことによって脱力感と感情が一気に込み上げてきてゆうの目から大粒の涙が溢れる。

「怖かったよね、でも俺が来たからもう安心して」

頬を伝う涙を手で拭ってくれる目の前の男性。
腰が抜けて歩くことができないゆうをおぶって自宅へ向かう。


少しして大きな建物の前で止まりドアを開けて中へ入る。

「到着、ここの2階に俺の部屋があるからそこで詳しく話すよ。あと今日は1人じゃ怖いだろうしここの空いてる部屋を先に使ってくれていいから」

建物の中に入り背中から下り地に足をつける。
助けてくれた男性の後ろに付いて階段を上がり開けた扉の中に入るよう促される。

中にはベッドとお菓子の入った大量の段ボールという殺風景な部屋。

「好きなところに座って。そういえばまだ名乗ってなかったよね、俺は迅悠一。実力派エリートですっ」
「…えっと、瀬川ゆうです」

「ゆうちゃんさ、ネイバーに襲われるの初めてじゃない、よね?奴らは明らかにゆうちゃんを探してゆうちゃんを狙っていた」
「詳しくは覚えてないです…けど、小さい頃怪物に食べられそうになったところを両親に助けられて、代わりに両親がその怪物に殺されたと病院で警察?ボーダー?に聞きました。病院で目が覚めたらこの黒いブレスレットをしていて、何だか両親を感じる気がしてずっと嵌めているんですけど不思議ですよねぇ」

腕に嵌めているブレスレットを撫でながら作り笑いを浮かべながら話すゆう。
迅は薄々と感じていたモノが確信に変わろうとしておりそのブレスレットを眺める。

「そのブレスレット、多分だけどただのブレスレットじゃなさそうだね。トリオン反応を感じる。…ちょっとこのブレスレットに触れて"トリガー起動"って言ってみて」
「あの…どういう事ですか…?トリオン…?」
「いいからいいから、とりあえず言ってみてっ」

頭上にはてなマークを浮かべたまま言われた通りブレスレットに軽く触れ

「トリガー、起動」

その瞬間ゆうは光に包まれ着ていた会社の制服から黒いワンピースに変わった。
そして手には黒い刀が握られており、突然のことで混乱をする。

「えっ、これは一体どうなって…!?会社の制服は!?この刀は何!?銃刀法違反にならないのこれ!?」
「やっぱり、ゆうちゃんのこれは黒トリガーだったんだね。そしてゆうちゃん自身もトリオン量が多い。だからネイバーに狙われたんだ」

「話が全くわからないのですが…!」
「ゆうちゃんの両親ってどんなお仕事をしてたの?」
「お仕事ですか…?えぇっとー…街を守る仕事って言ってた気がします…」
「何となく分かってきた。たぶんゆうちゃんの両親はネイバーに殺されてない、そしてこのブレスレットが両親そのものだよ」

迅の発言についていけず頭がこんがらがる。
ブレスレットが?両親で?両親は殺されてない?
そしてこのブレスレットはただのブレスレットではなく?変身ができる?

全くわからん。

「記憶が混濁しているのかもしれない。俺が思うにたぶん両親は殺されたんじゃなくてこの黒トリガーになって、ゆうちゃんは無意識にこの黒トリガーを使ってネイバーを倒した。そしてそのまま気を失ったんだと思う」

分かりやすい説明してくれているのかもしれないけど知識のないわたしには難しい。
わたしがこれで変身して怪物を倒して気絶?そして倒れてるところを誰かが発見して救急車を呼んでくれたというのか?

「ごめんなさい、難しい話でよくわからない。この黒トリガー?は何に使われるんですか?」
「ん、まぁ簡単にいうとさっきみたいな化け物、ネイバーを倒すときに使う。これを起動すると体はトリオン体になって生身はトリガーホルダーに格納されるんだ。だからトリオン供給機関が破壊されない限り生身には戻らない。あと自分で解除するまでね。それにこの黒トリガーはちょっと特殊なんだ」

えってことは今わたしは生身の体じゃないってこと!?
そして自分の頬を摘んでみせるゆう、確かに痛みを感じない。
触っている感触はあるが痛みはない。

「ははっ、いい反応だ。感覚はあるのに痛みはないでしょ?例えば手足を切られてもトリオンさえなくならなければそのまま動ける、けど脳や心臓部をやられたら一瞬でやられちゃうけどね。けどこの黒トリガーは俺たちボーダーの開発したものとは違うからトリオン供給機関を破壊されても本部に転送されないんだ。この黒トリガーの中に保管されている生身の身体に戻ってしまう」
「えっ…ということはそのトリオン体がなくなって元の姿に戻ってしまったら最期、攻撃されたら死んじゃうってことですよね…?」
「まぁそうなるかな、そうならないためにもゆうちゃんには俺と一緒に本部まで来てほしい。そうしたら本部にあるウチのトリガーを渡せるから。そしてこのゆうちゃんが持っている黒トリガーは少しだけ解析させてほしいんだ」
「え、あっ、助けてもらえるなら全然この黒トリガーは迅さんたちにお渡しします。…あっ!そういえば!わたしさっき工場でそのネイバー?が喋ったのを聞いたんです!なんかわたしに"おいで"って言ってたような…」

パッと先程工場での出来事を思い出し尋ねる。
しかし迅は難しそうな顔をして何かを考え始める。

「ネイバーが喋ったのは見た事がないな、あの場に人型ネイバーは居なかったはずだ。それにボーダーにもそんな報告今までなかった、けどゆうちゃんには聞こえたんだよね?」
「はっはい…でも実例がないならわたしの聞き間違いかもしれないです…」
「いや、簡単にそうとは言い切れないかもね。君にはネイバーの声が聞き取れるサイドエフェクトがあるのかもしれない」

また新しい情報に脳が処理できずぽかんとするゆう。

「サイド…エフェクト…?超能力的なやつですか…?それがわたしに宿っててネイバーの声が聞こえる、と。やばくないですかそれ、わたしもしかしてスプーン曲げとか出来ちゃったり!?」
「いや、スプーンは曲げられないけどネイバーと交信が出来るとしたらそれは凄いことだよ。余計俺たちボーダーに手を貸して欲しい」

そう言うと迅はゆうの前は手を差し出した。
ゆうはそれを見てそっと手を伸ばし迅の手へと近付けると、勢いよく迅に手を繋がれ握手を交わした。

「交渉成立。今日はもう遅いから明日本部へ行こうか。…とりあえず着替えは申し訳ないけど俺のやつ使って、でかいだろうけど許してねっ」

クローゼットを漁り服を取り出すとゆうの近くへと投げていく。

「風呂は下にあるし飯はー…あれ、今日の当番誰だっけな。…あー小南か、小南ならカレー作って置いてるはず。リビングで待ってるから風呂から出たらリビングまで来て、カレーあっためとくから」

じゃ、下行こうか。とドアを開けゆうを手招きした。
ゆうは渡された服を慌てて拾って迅について行き慌しい1日は終わった。

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