タイミング / 迅悠一

C級からB級へ上がるのは簡単だった、けどやっとB級からA級まで上がれたと思ったらA級の壁はでかい。個人ランクだけをひたむきに上げてきたがもうこれ以上は無理かもしれない。下位から変わることはないのかもしれない。

と、わたしは諦めていた。

「ま、これが今の実力って事じゃない?運良くA級までこれたかもしれないけど、この先は運が良くても頭が悪かったらどう足掻いても無理でしょ」
「おいおい、そんな意地悪を言うな菊池原。瀬川も瀬川なりに頑張って以前より技が当たるようになってきたじゃないか」
「そうだな!俺も歌川が言うように上達してきてると思うぞ!」

ぽんっとゆうの肩を叩く嵐山。
そんな嵐山をゆうはパッと目を潤ませながら見る。

「まぁそうだね、一回負ける毎に自分の敗因を見直して同じミスをしないのはいいと思うよ」
「とっきぃぃぃぃっ!」

「いやいやみんな甘やかしすぎ、ほらあれ見てよ。3本先取の勝負を1人ずつして見事に全敗。僕の時に至ってはカメレオン使ってるのにくしゃみ、普通カメレオン戦闘中にくしゃみなんてする?すぐに居場所わかったんだけど」
「全くその通りです!時間の無駄!私達はこれから任務があるのにあなたのために貴重な時間を割いて練習に付き合ったのにこの有様、どうしてこの人がA級隊員なのか疑問で仕方ないです」

個人ランク戦ブースのソファで励ましてくれているみんなに囲まれながら燃え尽きるゆう。
嵐山隊は飴と鞭がちょうどいい感じになるようにバランスが取られてるんだなぁ。

「きくっちーと木虎は相変わらず厳しいね〜木虎は可愛いだけじゃなくて強いんだもんすごいなぁさすがみんなの憧れ木虎藍!」
「ちょ、ちょっと!何言ってるんですか急に!そんなことを言ってもあなたが私に勝てない事実は変わらないですからね」

少し頬を赤くして照れた木虎、照れ隠しなのか先程より声量が大きくなった。

「はっはは!相変わらずお前たちは仲がいいな!」

「仲良しです!」
「仲良くないです!」

偶然ハモったゆうと木虎、もちろん木虎はムッとしたしその場にいたみんなは笑う。
菊池原はまた始まった、と言わんばかりの顔をしてたけど。

するとそこに、

「あれれ〜?ゆうちゃん偶然だね。みんなもお疲れ様、あげせん食べる?」

あげせんを片手に自称実力派エリートがやってきた。

「お!迅じゃないか、お前がここに来るなんて珍しいな」
「それは嵐山さんたちも一緒でしょ〜。ここに集まってるところを見るとまたゆうちゃんの修行かな?上から風間隊の2人も見えたからてっきり風間さんもいると思ったけどいないのね」
「風間さんは今会議に出席していて。たぶん次の遠征の件かと」

迅はふーん、と一瞬何かを考えた様子だったがすぐにまたいつもの飄々とした姿に戻る。

「僕たちは風間さんに頼まれてこの人の練習に付き合ってただけ、こんな弱い人を隊に入れたいなんて風間さんも変わってるよ」
「おっと風間さんも瀬川の事を狙っていたとは。他にも狙っている隊が多いと聞くぞ。ウチはもう戦闘員4人で誘うことができないが、一緒に戦闘できるのを楽しみにしているからな!」

きくっちーにちくちくグサグサと心を抉られてる最中の嵐山さんのあったかい言葉に救われる…。
さすがみんなのお兄さんだなぁ大好きだなぁ。

「この人が欲しいんじゃなくて、この人の"能力"が欲しいだけ。透視のサイドエフェクト、カメレオンでステルス状態でも位置がわかるってずるくない?」
「ちょっときくっちーわたしに冷たすぎない!?あれか、風間さんがわたしに取られそうでヤキモチ妬いてんの?自分の事誘っておきながら今度は他の女に手を出すのかって?」

それを聞いた菊池原は返答をするのがめんどくさいと言わんばかりの大きなため息を吐いて頬杖をつく。


「そんでゆうちゃんの練習はもう終わった感じ?ちょっと借りてもいい?」
「あぁ、今日の練習は終わりにしようと思っていたところだ。充、木虎、俺たちもそろそろ行こうか」
「そうですね。俺たちも時間が空いてる時は練習に付き合うので連絡してください」
「はい、では私たちはこれで。次の練習までにはもう少し上達していてくださいね」
「も〜わかってるってば〜!嵐山さん、とっきー、木虎忙しいのに今日もありがとうございました!またよろしくお願いします!」

3人の背中にぺこっと頭を下げて見送る。

「俺たちもこれで失礼します。また練習するとき呼んでください」
「はぁー疲れた。僕はもう付き合わないよ、こんな練習続けても意味がないと思うんだけど」

嵐山さんたちの後に続く菊池原と歌川。
菊池原はずっとぶつくさ文句を言いながら帰っていく。

「歌川ときくっちーもありがとね〜!風間さんに隊には入らないけどよろしく伝えておいて〜!」

2人に大きく手を振り練習に付き合ってくれていたみんなと別れる。

「はい、じゃあ行こうか。とりあえず玉狛まで」
「えっ本部じゃだめなの?歩くじゃんもう疲れた一歩も歩けない〜〜〜」

ジタバタとソファで暴れて見せるゆう。
その姿を見て軽く頭を掻いて「そりゃ困ったなぁ」と笑う迅。

「それじゃ、お姫様抱っこで玉狛までお連れしましょうか?お姫様?」

床に片膝を付いて片手をゆうに向けて如何にもな王子様ポーズをとる迅に引きつつ、どうせ冗談だろうとその誘いに乗る。

「あら本当?ではお願いしようかしら?」
「勿論ですお姫様、それでは失礼しますよっと」

迅に手を引かれそのままふわっと自分の体が浮いたと思ったら次の瞬間には迅にお姫様抱っこをされていた。

「ひゃっ!……っ、待って迅!冗談でしょ!?」
「冗談なんかじゃないさ、俺はいつだって本当のことしか言わないよ」
「嫌!降ろして!こんな恥ずかしい姿見られたくないの〜〜!」

迅の腕の中でバタバタと暴れるがさすが男性とも言える腕力、全然びくともしないし自力で逃げることも許されなかった。
ゆうの騒ぐ声に周りにいた隊員たちが目を向ける。

すると迅は顔を近づけてきてゆうの耳元でそっと、
「そんなに大声出して、俺に抱っこされてるのをみんなに見てほしいのかな?」
なんて言ってきたためゆうはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして黙る。

「ははっ、そんな急に大人しくならなくてもいいじゃん。そういうところも相変わらず可愛いね」
「……からかわないでよ」

不貞腐れながらボソボソと呟く。
迅からの反応は返ってこないけどきっと迅は聞こえている。聞こえていないフリをしているに違いない。

「いーーーから早く降ろして!自分で歩く!」
「はいはい、わかったから暴れないの」

そっと降ろしてもらい地に足をつける。
開放感がすごい、自由って素晴らしい。

本部を出て玉狛へ向かう。
玉狛への道中、お互いの任務の話をしたりわたしは学校の話をした。
もう18歳、就職するか進学するか周りは勿論決めているし行動してる人もいる。
けどわたしはボーダーの仕事で周りより遅れているため未だにどうするかを決めていない。

「別にさ、無理に決める必要なくない?ボーダーの仕事は不規則だしもし遠征メンバーに選ばれれば会社や学校には行けなくなる、他の隊員は両立してるかもしれないけど両立できるかどうかを決めるのは自分だよ」
「わかってる、わかってるんだけどやっぱり決められないの。ずっとニートでなんかいられない、かと言って両立できる程わたしは器用じゃないし…。わたしもみんなみたいに職業欄を埋めたい」

やや真剣なモードの話を歩きながらしていたためすでに玉狛の目の前まで来ていたことにも迅に声をかけられるまでゆうは気付かなかった。

「んー、まぁとりあえずその話は中でゆっくり聞くよ。ささ、入って」
「あ、えっもう玉狛に着いたの!?」

ドアを開け中へエスコートしてくれる迅。
下のリビングスペースへ案内されソファに座るよう促される。
迅はキッチンでお茶菓子と紅茶を用意して持ってきてくれた。

「はいどうぞ、練習の後の糖分は大事だよ。あげせんも食べたかったら言って?部屋からすぐ取ってくるから」
「あ、うん大丈夫、ありがとう。……いただきます」

そっと紅茶の入ったカップに口をつける。
ふわっと香る紅茶のいい匂いが心を落ち着けてくれるような気がした。

「それじゃ本題に入るよ。ゆうちゃんさ、太刀川さんや二宮さん、それに風間さんとその他数人の男に誘われすぎじゃない」

「ぶふぉっ!…っ何言い出すかと思ったらぶっ込んでくるじゃん」

飲んでいた紅茶を少し吹き出してしまうゆう。
迅は真っ直ぐにゆうを見ながら口を動かす。

「だって俺だけのゆうちゃんだったじゃん。なのにどうして?練習だってずっと俺とだけしてたのに。サイドエフェクトの件も俺と2人だけの秘密のはずだった」
「待って待って、迅と2人で練習してたのはまず迅の暇つぶしから始まってそれが何となく毎日になってただけであって…!それにサイドエフェクトは報告したら給料上がるって言われたもので…」
「給料って、そんなの俺が何とかするからゆうちゃんは気にしなくていいの!お金の心配はしなくても大丈夫!将来ゆうちゃんは俺が養っていくつもりだったわけだし」

…んん?

んんんんんんんん?
何か話がわからない方向へと進んでない?
こんな話してたっけ?
どういう流れでそうなった?

「待って迅、話の方向性がズレてる」
「ズレてない、俺の話はこれ。本当はゆうちゃんが卒業してから言うつもりだったんだけど、いつゆうちゃんが他の男に取られるか不安になっちゃったからさ。言っておこうと思って」

そのまま一呼吸置いて続ける迅。

「俺と、結婚してください」

迅の言葉を聞いてゆうは目をぱちくりされ驚きを露わにする。
そんな素振り今までなかった。
いや、なかったのではなく見せなかったが正しいのだろうか。

けど、こんな当然結婚してくれなんて言われても整理がつかない。

それにわたしはまだ未成年、というか迅も未成年。
こんな簡単に結婚するなどと言ってもいいのだろうか?

たぶん迅のことだから考える時間はくれるだろう。
いっぱい悩んで1年以内には返事をするでいいだろうか。

「俺の未来視によると、ゆうちゃんは俺と結婚して幸せになる」

迅の目は真っ直ぐゆうを捉えている。
ゆうは迅から目を離せないまま生唾を飲む。

時計の針の音とわたしの心臓音しか聞こえない。
実戦より緊張感が漂っているこの空間に押し潰されそうになりそうだ。

「…ごめん、今すぐに返事ができない。もう少し考えさせてほしい」
「そう言うのはわかってた、けどゆうちゃんをフリーのままにはさせたくないから…結婚の返事は待つけど今すぐ俺の女になって」

「そっそれも時間がほしいんだけど…!」

さっきまで対面で座っていたはずの迅が真横まで来た。
そしてそっとゆうの左手に自分の指を絡めてくる。

はっきり言って、雰囲気に飲まれそう。
普通の女の子なら完全に落ちてる。

そりゃあイケメンが目の前にいて恋人みたいなことをしてきているわけで?
わたしたち恋人だったっけと錯覚してしまう程今この空間はほんのり甘い。

当然わたしは迅を直視できないから俯いてる。
自分の膝から目を離さない。

「…ねぇ、俺を見てよ。ゆうちゃんが他の男といるところ見てたら気が狂っちゃいそうだ」
「……迅、わたしっ、」

〜〜♪

ゆうの言葉を遮るようにゆうの携帯が鳴る。
カバンから携帯を慌てて取り出し画面を見ると、太刀川さんからの着信だった。

じっと画面を見ながらでるでないを悩んでいると、迅がゆうの携帯をとり、通話ボタンを押した。

『お、やっと出たな。この間の件の返事が聞きたくてな。答えはもうきま』
「太刀川さん、俺の女にちょっかい出すのもうやめてもらってもいいですか?」

太刀川が話している途中にも関わらず遮り、話を続ける迅。

『…迅……?どうしてお前がゆうの携帯に出るんだ』
「今ちょうどいいところだったんです。すいませんがその話はゆうに代わって俺が断らせてもらいます」
『おい迅何勝手な、』

ピッ、と通話終了ボタンを押して強制的に終わらせてしまった迅。

「はい、これでもう邪魔は入らないよ。さっきの続き聞かせて?」

雰囲気、空気でわかる。
迅がさっきより冷たいのが。

怖い、こんな迅は見たことがない。
いつもみたいな飄々とした姿を見せないだけでこんなにも別人のようになるものなのか。

「わ、わたしは…人の重りに、お荷物になりたくない。だからこれから先もずっと1人で戦いたい。確かに迅となら楽しい未来になりそうだね、でもわたし怖いの。もし急に1人になってしまったらと思うと怖くて今以上に他人との距離を縮められないでいる。とくに迅、あなたは上層部からの任務で危険な仕事が多い。いくら迅が強くてもわたしは最悪なケースも考えてしまうの」

思っていたことをちゃんと口から出せた。
それを聞いた迅はサイドエフェクトで先読みをしていたのか、やっぱりね、といった表情をしている。

「じゃあせめて、結婚はまだだとしても手を出すことに了承をしてほしい。ゆうちゃんに触れず死ぬのはごめんだからね」
「なっなななな何言ってんの!?そういうことはせめて付き合ってからじゃない!!?」
「なら付き合おう。大丈夫、ちゃんと責任は取るからさ」
「責任って…!!わたしは当分ボーダーを引退する気はないしそれにわたしたちまだ未成年!」

迅の言葉に顔を真っ赤にさせながら反論するゆう。
思春期なので手を出す→責任を取るなんて言われたらアレしかないと迅の破廉恥な発言にオーバーヒートする。

「一応俺、今までずっと我慢してきたんだからね?溜まってる分ゆうちゃんにはたくさん付き合ってもらわないと。今夜は寝かさないよ」
「待っっって!何勝手に話進めてくれてんの!?まだ付き合うなんて言ってないじゃん!こんな性欲剥き出しの奴と誰が付き合うかあああ!それにわたしは、………んん!!?」

最後まで言葉を言い終わる前に、迅によって唇を塞がれ強制終了。

「…はい、手出しちゃった。これは責任を取って付き合わないとだな」

迅が唇を離してまだなお動けずに硬直するゆうをにやにやしながら見る。

「嫌だった?嫌ならもう手を出さないしゆうちゃんをきっぱり諦める。けど嫌じゃないって気持ちが少なからずあったなら俺のことを見てほしい」


…正直を言うとわたしは迅のことが嫌いではないしむしろ好きだった。この好きが恋愛としてなのか仲間としてなのかはわからなかったけど、迅にキスをされて答えが出た。

わたし、迅のことが恋愛的に好きだったんだ。
だから付き合ってもし迅が自分の前から消えたらと思うと苦しかったんだね。

これ答えはもう決まってるんじゃない…?

そう思い、ゆうは迅の目を真っ直ぐ見つめる。

「ははっ、まじか。この未来は見えなかった。最悪な未来のルートのはずだったんだけど、こんなこともあるんだな」

髪をかき上げ俯き顔を逸らす。

「迅がどんな未来を見たかはわからないけど、わたしは迅のことをずっと好きだったみたい。けどその好きがどういう好きなのかわからなくて…けど今はっきりした。迅にキスされなかったらたぶん一生気づかなかったかもしれない」

ゆうは俯いた迅の頬を両手で包み自分の方を向かせる。

「待って、今はダメ」

迅の顔は真っ赤になっており熱を帯びていた。
ゆうの手を退け両手で顔を隠す。

「自分から告白してキスしておきながら何で今更恥ずかしがってんの」
「違う、これは違うの!これはその、ゆうちゃんが俺のこと好きって」

ほほう、そういうことね。
迅の弱みを見つけるや否や悪いことを考えてしまう、これが好きな子をいじめたくなる心境ってやつなのだろうか。

そっとゆうは迅の耳元に口を近づけ「迅、愛してる」と吐息を漏らしながら囁けば、さっきまでの様子と打って変わってしおらしくなる迅。

耳まで真っ赤にしてずっと顔を隠している。

これはしめたと近づき迅の顔に自分の顔を近づけた瞬間、

「んむむっ!!?」

一瞬の隙をつかれ、迅によって唇をまたしても奪われてしまった。

迅はゆうが自分から近づいてくると予知しておりわざとあんな態度をとっていた。

「ほら、あんまり人をいじめるんじゃありません。これはお仕置き、だからね」

形勢逆転、まんまと迅のペースに戻されてしまい後ろに下がろうも迅に両腕を掴まれており逃げられない。

嵌められた、そう思って後悔するのももう遅い。

「メガネくんたち来るよ、そんなところ見られたらやばいんじゃない?」
「残念、今日はみんな支部には来ない予定になって、」
「はぁぁぁぁあつっかれたぁぁーーーー」
「はぁ!?小南、お前!?」

迅の声に突然やってきた小南は迅の方を見る。
目を向けた先には、1人の女の子を支部に連れ込みましてや両手を掴み今にも押し倒す寸前。

「迅!あんた何やってんのよ!!」
「ちがっばか、やめろ!物を投げるな!それにお前今日は帰らないって、痛ッ!」

ゆうと迅を見た小南は顔を赤くして持っていたカバンや近くにあったティッシュ箱などを手当たり次第に投げる。
迅は自分の身を守るためゆうから手を離し顔を守る。

「玉狛に知らない女連れ込むなんて許せない!しかもあんた何しようとしてたわけ!?」
「何言ってんだよく見ろ!これはゆうちゃんだ!お前らはどうしてこう俺の読む未来に反する動きをするかな!?」

小南に背を向けた状態だったゆう、小南からは顔が見えなかったため知らない女を連れ込んでイケナイことをしようとしているようにしか見えなかったようだ。

「えぇっ!?ゆう、本当にゆうなの!?久しぶりじゃない!あんた最近こっち来ないから心配してたんだからね!」
「ひっ久しぶり小南ちゃん!相変わらず元気そうで何より!」

先程の状況を見られたと思うと恥ずかしくて思うように言葉が出てこない上に目線も泳ぐ。
迅の方をチラッと見ると、迅もバツが悪そうに頭を掻く。

「今日はお前ら夜まで任務の予定だっただろうが、何早く帰ってきちゃってんの?」
「あー、太刀川があたしらの任務中に現地に来たのよ。凄い血相で。まぁ本部の近くだったしあたしら的には任務が早く終わってラッキーだったけど」
「本当にあの人は……とことん俺の邪魔してくるな」

大きなため息をこぼし、髪をかきあげる迅。
さっきの事が頭から離れない上に迅を好きだと認知したゆうはその姿にすらときめく。

「…とりあえず小南、俺ら見ての通りいい感じだからお子ちゃまは上に行ってろ」
「何言ってんのよ迅、ここでそんなことさせるわけないじゃない。それにゆうだってどうせ無理矢理連れ込まれて犯される一歩手前だったんでしょ?あたしが許さないわよ」

トリガーを握り迅を睨む小南に待った待ったと宥める迅。
今にも戦闘が始まりそうな程空気がピリつく。

「小南ちゃんありがと!でも大丈夫、今日はその…わたしの意思でここに来てるから」
「そういうこと。ま、後でみんなに言おうと思ってたけど、俺ら恋人同士なもんで」

ゆうの肩を抱き引き寄せる迅の行動に顔を赤らめ俯く。

それを聞いた小南が口元に手を当て「まぁっ」と驚いた表情を見せる。

「あんたたちそれを早く言いなさいよ!…迅、ゆうを泣かせたらあたしが許さないんだからね!あっそれとゆう、後で詳しく聞かせなさいよ」

ビシッと迅とゆうを指差し小南はそのまま部屋を出て2階の自室へと行った。

シンっと急に静かになった部屋に響くゆうの心臓音。
まだ迅に肩を抱かれておりドキドキが止まらない。

「…ほら、邪魔者は居なくなった。2人きりだよ」

ゆっくりと顔を近づけてくる迅。
唇がもうすぐ触れる、というところでゆうは迅の胸を押し引き離す。

「…待って!上には小南ちゃんいるしレイジさんもとりまるも帰ってくるかも」
「まぁゆうちゃんの読みは半分正解。けど半分不正解。なぜならここへ来るのは、」
「うぉぉいコラ迅!!!俺のゆう!?何言ってんだみんなのゆうだろうがぁぁ!」

ビクッと肩を動かすゆう。
静かな空間を破った人物は部屋にいきなり入ってくるなら迅の胸ぐらを掴み引っ張る。

されるがままの迅は相手を見るとやれやれとため息を零した。

「何だ、何もしていなかったのか。残念だ」
「ねぇ風間さん、何で僕たちも一緒に来なきゃいけなかったの?無意味じゃない?」
「まぁまぁ。菊池原も瀬川と迅さんのこと気になってたんだろ?」
「やめてよ、全くもって興味がないね」

開けっ放しの扉からぞろぞろと他の人間も部屋へと入ってくる。
太刀川はずっと迅に噛み付いており風間は表情は変えないものの何だか少し残念そうだ。
風間の後ろからは先程一緒に練習をしていた菊池原と歌川の姿。

「瀬川、迅のものになったというのは本当か?俺たちはその確認に来た」
「えっ、あの、えーーっと……まだ?」

首を斜めにし疑問系で質問に返すゆう。
菊池原はぷぷっと風間の後ろで小さく笑う。

「ほう?ゆうが言うなら間違いではないな。迅、さっきはよくも勝手にゆうの携帯に出てくれたなぁ?」
「いやいやいや太刀川さんたちが来なかったら今頃俺とゆうちゃんは結ばれてたの!心も身体も俺のものになってたはずなんですよ!」
「何言ってんだ、お前には優秀なサイドエフェクトがあるだろ?それで俺たちの行動を予知して動けばとっくに抱けただろうが」
「だーーかーーら!あんたらが俺の予知に反した動きをするせいで掻き乱されてんの!俺の見た予知では今頃ゆうちゃんを抱いてたはずなんですー!」

それを聞いたゆうは顔を真っ赤にさせ両手で顔を覆う。

「あららー、迅さん欲に忠実ー」
「流石に本人目の前にしてその発言はどうなんだ迅」
「瀬川のあんな姿初めて見ますね」

「わっわたしのことは見ないで〜〜〜!!」

「ゆう、まだ迅のものになってないなら俺んとこに来いよ。大人のお兄さんだぞ〜」

掴んでいた迅の胸ぐらをパッと離し、ゆうに向け両腕を広げる。
ゆうは困惑しながらも太刀川と迅を見る。

「なーに言っちゃってんの太刀川さん。大人のお兄さんって俺と1つしか変わんないでしょ」

乱れた服をぱっぱっと整えジト目を向ける。

「未成年と二十歳は全くの別物、そうですよね風間さん」
「俺に振るな太刀川」

相変わらずの返しをする風間。
その後ろでは菊池原が欠伸をして帰りたそうな顔をしている。

「…わたしもう家に帰っていいですか…」

「今夜は寝かせないってさっき言ったでしょ〜今日は俺の部屋でお泊まりしようね」
「何!!俺はそんなこと許してねぇぞ!!迅、俺も泊めろゆうの貞操は俺が守る」
「それは拒否させてもらいますよ太刀川さん。とりあえず今日のところはお引き取りを」

意地でも帰らないと床に胡座をかいて座る太刀川を風間は呆れて見る。

「俺たちはこの後任務があるから先に失礼する。瀬川、例の件考えておいてくれ」
「あれ…?昼間きくっちーに風間さんに断っておいてって頼んだはずですけど…?」

菊池原はというと、あー忘れてたーと言わんばかりの顔をしながら頬を掻いていた。
悪びれてる様子もない。

「お前ら帰るぞ」と風間隊はすんなりと去っていく。
残された太刀川は頑固にもその場から動かない。

「太刀川さん、わたし太刀川隊にも入らないよ?」
「違う、俺はそんな理由でここまで乗り込んできたわけじゃないの!」
「えっ違うんですか!?風間さんの目的がそうだったからてっきりそうなのかと」

太刀川が話し出す手前で迅がそれを静止する。

「はい、フラれた方はお引き取りをお願いしまーす。そんじゃ太刀川さん、また本部で」

迅は太刀川を立たせて背中を押して行き玄関まで連れて行くと外へ靴を投げ太刀川を押して建物の外へ出す。

「おい!何すんだ迅!話はまだ終わってねぇ!」
「あのままの状態で時間を無駄にするならさっさと切り上げて2人の時間を増やしたいじゃないですか、というわけでお疲れ様でした〜」
「迅!待て!俺は納得してないんだからな!」

太刀川は迅を掴み引き止めるが迅も食い下がらない。
必死に玄関から押し出し扉を閉めようとするがなかなか両者譲らず。

ゆうは静かになったリビングでそっとソファに横になり天井を見る。
玄関ではギャーギャー騒いでいるのが聞こえるがこの短時間でどっと疲れたゆうはそのままゆっくり瞼を閉じた。


ようやく決着がついた迅。
玄関の扉を閉めてリビングへ戻る。

「ゆうちゃんごめんね〜太刀川さんが全然帰ってくれないもんでさ、って」

そしてすぐ目にしたのが眠っているゆうの姿。

「あらら寝ちゃったのね。仕方がない、今日のところはこれだけで勘弁してあげる」

そう言ってゆうに近づき床に膝をつける。
ゆうの顔にかかった髪の毛をそっと手で避け頬を撫で見つめる迅。

微笑を浮かべそのままゆうの唇に自身の唇を近づける。

もうすぐ、もう重なる、というところで、

「迅〜、下が騒がしかったみたいだけど一体何が…ってあんたまた!ゆうに何しようとしてんのよ〜!!」

先程の迅と太刀川の言い争いを聞き何かあったのではと遅ばせながら部屋を出て一階に降りてきた小南がリビングに入ると、寝ているゆうに襲い掛かろうとしている(ように見える)迅の姿がすぐ目に入り声を荒げる。

「ばっ、小南!?だからなんでお前はいつもこういうタイミングで来るわけ!?」

突然現れた小南に驚き尻餅をつく迅は頭を抱える。

そしてまた始まる小南と迅の言い争いを横に、どんな夢を見ているのか笑みを浮かべながら眠るゆう。

2人が結ばれるのは一体いつになることやら。