chapter:この想いをキャンバスに込めて。 ◆Side:Ryo Tohdo◆ ……ガラガラ。 俺、藤堂 涼(とうどう りょう)は、あくびを噛み殺し、五階にある美術室のドアを開けた。 油絵具独特の匂いが鼻につく。 時刻は早朝八時。 だから当然、学校にはあまり人はいない。 ましてや、美術室なんてこじんまりとした、特にこれといって目ぼしい物がない教室には、全く人がいない。 どうして俺がここにいるのかといえば……。 それは、今日が美術部の絵の締め切りだからだ。 あともう少しで仕上がるから、人があまりいない時間帯の方がはかどる。 だからこうして、人気がないこの時間を選んだ。 俺は片隅に固めて置かれている木製のイーゼルを取り出し、自分の体の幅よりも少し大きめのキャンバスを掛けた。 真っ白だったキャンバスには、完成が近いおかげで様々な美しい色が乗っている。 自分が描いた絵を見つめ、ほうっとため息をついた。 キャンバスに描かれている物は風景画でなはい。 肖像画だ。 実は、早朝ここへ来て早く仕上げようと思った理由はこれにもあったりする。 他のヤツに、俺がこの絵を描いている姿を見られたくなかったからだ。 陶器のような極め細かい綺麗な肌。 長いまつ毛に縁取られた、タイガーアイにも似た輝く瞳。 流れるような鼻と、その下にある紅色のふっくらとした唇に、少しふっくらとした頬。 はしばみ色にも似た、肩までの少し長めの細い髪は、教室から吹き込む風になびき、美しく輝く。 |