chapter:この想いをキャンバスに込めて。 あたたかな春の日差しが当たる窓辺に佇み、優しく微笑む姿――。 この絵のモデルは、俺よりも一年先輩で、ここの男子校でみんなから持てはやされている、マドンナ的存在。 美術部・部長の如姫 心桜(きさき みおう)先輩。 俺が――好意を持っているその人……。 そう、俺はこの人に、人知れず恋をしている。 かと言って、告白をする気はない。 だって俺は身の程を知っている。 なにせ俺は先輩よりも背が高く、おまけに無愛想ときている。 しかも同性――。 いくら男子から持てはやされているとしても、この想いを受け入れてくれるはずは、さすがにないと思う。 だからこそ、俺は触れられない悔しさをキャンバスにぶつけ、こうして彼を描いた。 はあ……。 もう一度深いため息をついて、本物に触れられない分、真っ白いキャンバスに描かれた紅色のふっくらとした唇をなぞってみる。 だが、結局は触れても質感も何もない。 いったい俺は何を期待したんだろうか。 今の自分を想像して、自嘲気味(じちょうぎみ)に笑ったその時だった。 俺以外、美術室に来る人はいない。 そう思っていたのに、背後にあるドアが開く音がして、思わず身体が震えた。 いったい誰が? などと思って、振り返ると……。 そこには、俺が想っている――今まさに考えていた人物がいた。 「やっぱりいた。熱心なんだから……」 そう言って、紅色の唇が弧を描く。 |