chapter:Escape~逃亡の果て 「盗人だ!! 盗人が出たぞ! 捕まえろ!! 待てぇええっ!」 「待てと言われて誰が待つかよ、ぶわぁあああかっ!!」 オレは、行き交う人々の喧噪(けんそう)をくぐり抜けながら、後ろから追いかけてくる野郎どもに、下瞼(したまぶた)を人差し指で引き下げて、舌を出し、『あかんべえ』をして答えた。 雲ひとつない、真っ青な空で、ギラギラと輝く太陽が照らす赤土色をした地面の上を、オレ、アティファは走っていた。 アティファって名前、男なのに女みたいだって笑うなよ? これでも、けっこう気にしてるんだ。 この国では、アラブ語をそのまま名前にして使うことを習わしとしているんだ。 え? オレの名前の意味が何かを聞きたい? 『愛情』だ。 この名前は、8年前に出稼ぎに行って死んでしまったオレの親父が付けてくれた。 なんでも、父さんがこの名前に決めたのは、生まれてからすぐに目についた、大きな目と真ん中に乗っている小さな鼻がとてもかわいらしかったから――らしい。 それでもって、オレの顔は、昔も今も、少しも変わらない。 小麦色の肌に、黒くて大きいタレ目と、顔の真ん中に乗っている小さい鼻。 後ろでひとつにまとめた腰まである長い髪。 16歳って言う年にしては、160センチの身長で低い背。 おまけに筋肉もつかない痩せっぽっちな体――。 |