chapter:Escape~逃亡の果て 女みたいに華奢(きゃしゃ)だから、同じ年頃の奴らには、『アティファちゃん』ってからかわれるし、正直、鬱陶(うっとう)しい。 だけど、いくら気にいらないものだからといって、改名しようとは思わない。 なにせ、オレの名前はすでに、街中に知れ渡っている。 改名なんて今更だ。 そんなオレが、なんで逃げてるかって言うと……。 まあ、後ろから追いかけてくる奴らが言うとおり、オレが盗みをはたらいたからだ。 今日一日分の食事を、賑わってる市場から、ちょいちょいっと、な。 そんで、オレが両手に持っているのはまさにそれ。 真っ青な天井で輝いている太陽には負けるけれど、綺麗な赤いリンゴみっつに、長細いパン。 それから、甘い果汁のメロンをひとつ。 ――え? それをオレが全部食べるのかって? 違う、違う。 この食材は、オレとオレの家族で分けるんだよ。 オレの家族は、病気で寝たきりになっている母さんと、今年7歳になったばかりの妹の3人。 父さんが出稼ぎで死んでしまってからというもの、働き手もないオレがすることといえば、こうして盗人になって、追っかけてくる奴らを振り切って、家に帰るだけだ。 そんなオレの住まいは、この活気ある街とは比べものにならないくらい、荒れ果てたスラム街にある。 宮殿があるこの街から少し外れた、まったくと言っていいほど、日陰がない一角にある小さな街――。 |