アラビアン・ナイト
第四話





chapter:Sell~人買い





あるのは玄関と呼ばれる扉と、自分たちが眠る部屋の、ただそれだけだ。


オレの家は、赤茶色をした、粘土で作られた壁のレンガには大きな亀裂が入っているし、今にも崩れ落ちそうな天井があるばかりだ。


それでも、オレたちには、『家』と呼べる場所がある。


ココ、スラム街に住んでいる連中の中には、『家』すらも持てない人々もいるんだ。


そう考えると、オレたちは、まだマシな方だといえる。



亀裂が入った家の前を見やれば、そこに、ふたつの人影が見えた。


母さんと妹だ。

帰りが遅いオレを心配して家の外に出たのだろうか。




「母さっ!」


オレは、片手を、光がさんさんと射しかけている太陽へと向け、数メートル離れた母さんに呼びかける。




……だけど、なんだろう。

何かが違う。


オレは、外に出ているふたりの雰囲気が、どこか切羽詰まっているように感じ、目を凝らした。




そして、母さんと妹の他に見えたのは、妹の手を引く野郎と、その他にも2人。合計3人の、男の姿だ。



奴らの顔は、どいつも見覚えはなかった。

奴らが着ているカンドーラも、オレたちみたいにツギハギだらけのものではなく、立派だ。


男たちは間違いなく、『よそ者』だった。




……いったい、どうしたんだろう。





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