chapter:Sell~人買い あるのは玄関と呼ばれる扉と、自分たちが眠る部屋の、ただそれだけだ。 オレの家は、赤茶色をした、粘土で作られた壁のレンガには大きな亀裂が入っているし、今にも崩れ落ちそうな天井があるばかりだ。 それでも、オレたちには、『家』と呼べる場所がある。 ココ、スラム街に住んでいる連中の中には、『家』すらも持てない人々もいるんだ。 そう考えると、オレたちは、まだマシな方だといえる。 亀裂が入った家の前を見やれば、そこに、ふたつの人影が見えた。 母さんと妹だ。 帰りが遅いオレを心配して家の外に出たのだろうか。 「母さっ!」 オレは、片手を、光がさんさんと射しかけている太陽へと向け、数メートル離れた母さんに呼びかける。 ……だけど、なんだろう。 何かが違う。 オレは、外に出ているふたりの雰囲気が、どこか切羽詰まっているように感じ、目を凝らした。 そして、母さんと妹の他に見えたのは、妹の手を引く野郎と、その他にも2人。合計3人の、男の姿だ。 奴らの顔は、どいつも見覚えはなかった。 奴らが着ているカンドーラも、オレたちみたいにツギハギだらけのものではなく、立派だ。 男たちは間違いなく、『よそ者』だった。 ……いったい、どうしたんだろう。 |