chapter:Refusal~涙の理由 オレは鎖で繋がれていない方の左手で、差し出された果物をカゴごと払い除けた。 紫色をした絨毯(じゅうたん)に向かって勢いよく落下するカゴからこぼれ落ちた果物が、ゴロンと音を立てて転がった。 「貴様、へサーム様がせっかく!!」 兵士の手が上がる。 差し出した好意を受け取らないオレを叩く気だ。 「っつ!!」 殴られる!! オレはやって来る激痛から堪えるため、歯を食いしばり、目を閉じる。 だけど、いつまで待っても痛みはやって来なかった。 「やめろ、行くぞ」 兵士を制止させたヘサームは、オレに背を向け、扉を閉めた。 それとほぼ同時――。 ガチャン。 冷たい金属音がオレの耳に届いた。 聞こえた金属音は、きっと鍵をかけたことによるものだろう。 オレが逃げられないよう、施錠したんだ。 そんなことをしなくても、オレは逃げない。 逃げる場所なんて、もうどこにもない。 同性に組み敷かれ、汚れてしまったオレ。 そのオレが、いまさらオレを生んでくれた母さんや、純真無垢な妹マスーメの前に出て行ってどうしろというんだ。 恥をさらすだけだ。 いや、それよりも、心優しい母さんのことだ。変わり果てたオレの汚い体を見て嘆くだろう。 『自分さえ健康であれば』とそう言って、自分を責めるかもしれない。 |