迷える小狐に愛の手を。
第一話





chapter:大きな傷を抱えて。





……ヘンなの。

涙って、死んでも出るもんなんだな。


胸がきゅううっと締め付けられるように痛い。

苦しくて、悲しくて――。

オレは自分を守るように、身体を丸める。


そうしたら……。


今までオレの頭にあった手が、目じりから流れる涙を、そっと拭ってくれた。


その仕草は、やっぱりとてもあたたかで、とても優しいものだった。




「かわいそうに……。よほど苦しい思いをしたんだろうね」

今はもういなくなってしまった父さんと母さんを思い、静かに涙を流していると、聞いたことのない声が聞こえた。


……いや、違う。

この声は知っている。


この声は、神楽から逃げる時、オレが気を失う直前に聞こえた声だ。


まさか、オレ、生きてる?

じゃあ、オレはいったいどこにいるの?

今、どうなってるの?


オレの意識が途切れる直前を思い出し、急に今が怖くなったオレは、閉じていた目を大きく開けた。
同時に明るい太陽がオレの目に飛び込んでくる。


そして、目の前には……。



肩まである黒い髪に、黒い瞳をした男がいた。

年齢は25歳前後だろうか。

身長は人型になった時のオレよりもだいぶん高い。

だからたぶん、180センチはあるかな。


お日さまのように真ん丸な瞳は、すっと細められ、左右対称だ。

その真ん中にある鼻はスッと通っていて、口元は弧を描いている。





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