chapter:大きな傷を抱えて。 ……ヘンなの。 涙って、死んでも出るもんなんだな。 胸がきゅううっと締め付けられるように痛い。 苦しくて、悲しくて――。 オレは自分を守るように、身体を丸める。 そうしたら……。 今までオレの頭にあった手が、目じりから流れる涙を、そっと拭ってくれた。 その仕草は、やっぱりとてもあたたかで、とても優しいものだった。 「かわいそうに……。よほど苦しい思いをしたんだろうね」 今はもういなくなってしまった父さんと母さんを思い、静かに涙を流していると、聞いたことのない声が聞こえた。 ……いや、違う。 この声は知っている。 この声は、神楽から逃げる時、オレが気を失う直前に聞こえた声だ。 まさか、オレ、生きてる? じゃあ、オレはいったいどこにいるの? 今、どうなってるの? オレの意識が途切れる直前を思い出し、急に今が怖くなったオレは、閉じていた目を大きく開けた。 同時に明るい太陽がオレの目に飛び込んでくる。 そして、目の前には……。 肩まである黒い髪に、黒い瞳をした男がいた。 年齢は25歳前後だろうか。 身長は人型になった時のオレよりもだいぶん高い。 だからたぶん、180センチはあるかな。 お日さまのように真ん丸な瞳は、すっと細められ、左右対称だ。 その真ん中にある鼻はスッと通っていて、口元は弧を描いている。 |