chapter:大きな傷を抱えて。 ……なんだろう。 明るい光が、閉じたオレの瞼(まぶた)に注ぎ込まれる。 ふわり、ふわり。 オレの頭のてっぺんでは、懐かしくて優しい、大きな手が何度も行ったり来たりを繰り返していた。 母さんかな? それとも、父さんかな? 目を開けたい。 でも、目を開ければきっと、これは夢だったと思い知らされる。 だって……。 父さんと、母さんは……もう、この世界にはいないんだ。 だったら、この手はただの幻覚か何かだ。 父さんと母さんを殺し、オレの全部を奪おうとした神楽(かぐら)は、こんな優しい手をしていないだろうし……。 もしかして、オレも、父さんや母さんみたいに死んじゃったのかな……。 神楽から、無事に逃げ切ったと思ったけれど、やっぱり気を失ったあの後、神楽に捕まって、力を奪われて、オレ……死んじゃったのかな。 だったら、ここは天国? だって、地獄なら、こんなに穏やかな気持ちになるわけがないもんな……。 ――父さん。 ――母さん。 ふたりを思い浮かべれば、真っ白な雪の中、麦畑みたいに綺麗な金色の毛並みをしていた身体が真っ赤に染まり……。 力尽きた姿が、脳裏にこびりついて離れない。 威厳たっぷりの父さんと、優しかった母さんは、もういない。 そう思い知れば、目頭が熱くなる。 涙が……目じりを伝って流れていくのが分かる。 |