迷える小狐に愛の手を。
第二十話





chapter:報われない想いを抱き……。







「まったく……お前なあ、どれだけ傷をつくったら気がすむんだよ」

オレの顔にできた、神楽(かぐら)から逃げる時についた傷とか、幸に立てられた爪の痕とか、肩口につけられた歯型の深い傷を指さして、朱(あや)兄ちゃんはプンプン怒っている。


その隣で、オレの傷に包帯を巻いたりしてくれる紅(くれない)兄ちゃんは、とろけるような優しい笑みをつくっていた。


オレたちがいるココは、地下室じゃない。

幸(ゆき)の意志が妖狐の力に勝ったことを知った兄ちゃんたちは、一階のたくさんある客室の中のひとつに、幸を運び込んでくれた。


白い壁に囲まれた八帖もの広い洋間のココは、大きな窓がはめ込まれ、クリーム色のカーテンが取り付けられている。

地下とは違って、あたたかい空気が部屋中を包み込む。



「まあ、いいじゃないか朱。古都(こと)が無事だったんだから」

「甘いよ、クレ兄。そんなだから、古都は図に乗って色々やらかすんだ」

……ううっ、ごめん。

今回ばっかりは言い訳できず、朱兄ちゃんのお説教を大人しく聞くオレ。


「でもね、古都の怪我にかぎっては、今に始まったことでもないからね」

綺麗な眉をハの字にして苦笑する紅兄ちゃん。


「そういうことだ」

今まで黙っていた暁(あかつき)兄ちゃんも紅兄ちゃんに同意して、朱兄ちゃんの頭をポンポンと撫でて宥(なだ)めた。





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