chapter:報われない想いを抱き……。 「まったく……お前なあ、どれだけ傷をつくったら気がすむんだよ」 オレの顔にできた、神楽(かぐら)から逃げる時についた傷とか、幸に立てられた爪の痕とか、肩口につけられた歯型の深い傷を指さして、朱(あや)兄ちゃんはプンプン怒っている。 その隣で、オレの傷に包帯を巻いたりしてくれる紅(くれない)兄ちゃんは、とろけるような優しい笑みをつくっていた。 オレたちがいるココは、地下室じゃない。 幸(ゆき)の意志が妖狐の力に勝ったことを知った兄ちゃんたちは、一階のたくさんある客室の中のひとつに、幸を運び込んでくれた。 白い壁に囲まれた八帖もの広い洋間のココは、大きな窓がはめ込まれ、クリーム色のカーテンが取り付けられている。 地下とは違って、あたたかい空気が部屋中を包み込む。 「まあ、いいじゃないか朱。古都(こと)が無事だったんだから」 「甘いよ、クレ兄。そんなだから、古都は図に乗って色々やらかすんだ」 ……ううっ、ごめん。 今回ばっかりは言い訳できず、朱兄ちゃんのお説教を大人しく聞くオレ。 「でもね、古都の怪我にかぎっては、今に始まったことでもないからね」 綺麗な眉をハの字にして苦笑する紅兄ちゃん。 「そういうことだ」 今まで黙っていた暁(あかつき)兄ちゃんも紅兄ちゃんに同意して、朱兄ちゃんの頭をポンポンと撫でて宥(なだ)めた。 |