迷える小狐に愛の手を。
第六話





chapter:蘇る苦痛と恐怖







なんでか分からないけれど、その日から、オレは幸(ゆき)の顔を真っ直ぐ見ることが出来なくなった。

幸は相変わらずひっきりなしにオレを介抱してくれる。

感謝はしている。

だけど、どうも前みたいにはいかない。

それは加奈子(かなこ)も同じで、幸と顔を合わせると、ほっぺたは赤く染まるけれど、幸と視線が外れるとどこか悲しそうに背中を見つめている。


幸って……。

加奈子のことをどう思ってるんだろう?

嫌ってるわけでもなさそうだ。

どちらかといえば、加奈子といる時、幸はすごくリラックスしてるように見える。

笑顔も、他の女性といる時と比べて多いような気がする。

実は、幸も加奈子のことを、好きとか?

だけど、加奈子は『学生』だから、その想いを言えずに隠してるとか?


そう思えば、オレの心臓がキリリと痛む。

だから何なんだよこの気持ち。

わっけ分かんねぇ。


太陽が真上にある今日も、オレはベッドの上で、そんなことを悶々(もんもん)と考えながら、居眠りをしていた。

受付カウンターには、あれから行ってない。


あそこは例のドーベルマンも来るだろうから嫌だ。

そんな今日も幸は一階の診察室で働いている。

今日は『土曜日』だから、診察は午前中で終わるらしい。

受付のアルバイトをしている加奈子は学校の、『課題』があるからと、来ていない。

『がっこう』とか『かだい』とか、人間社会は相変わらずワケわかんないことが多いな。





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