chapter:蘇る苦痛と恐怖 なんでか分からないけれど、その日から、オレは幸(ゆき)の顔を真っ直ぐ見ることが出来なくなった。 幸は相変わらずひっきりなしにオレを介抱してくれる。 感謝はしている。 だけど、どうも前みたいにはいかない。 それは加奈子(かなこ)も同じで、幸と顔を合わせると、ほっぺたは赤く染まるけれど、幸と視線が外れるとどこか悲しそうに背中を見つめている。 幸って……。 加奈子のことをどう思ってるんだろう? 嫌ってるわけでもなさそうだ。 どちらかといえば、加奈子といる時、幸はすごくリラックスしてるように見える。 笑顔も、他の女性といる時と比べて多いような気がする。 実は、幸も加奈子のことを、好きとか? だけど、加奈子は『学生』だから、その想いを言えずに隠してるとか? そう思えば、オレの心臓がキリリと痛む。 だから何なんだよこの気持ち。 わっけ分かんねぇ。 太陽が真上にある今日も、オレはベッドの上で、そんなことを悶々(もんもん)と考えながら、居眠りをしていた。 受付カウンターには、あれから行ってない。 あそこは例のドーベルマンも来るだろうから嫌だ。 そんな今日も幸は一階の診察室で働いている。 今日は『土曜日』だから、診察は午前中で終わるらしい。 受付のアルバイトをしている加奈子は学校の、『課題』があるからと、来ていない。 『がっこう』とか『かだい』とか、人間社会は相変わらずワケわかんないことが多いな。 |