迷える小狐に愛の手を。
第六話





chapter:蘇る苦痛と恐怖





ま、オレには関係ないけどな。


そっぽを向いて、また目を閉じると、意識の遠くから扉がゆっくり開く音が聞こえた。

どうせ一階の物音がここまで響いているんだろう。

そう思い、そのまま目を閉じていると――。


やっぱりおかしい。


オレを監視してるような、そんな視線を感じる。


伏せた顔を上げると……。

そこには忘れもしないドーベルマンの顔が、『でんっ』とあった。



『うわあああああっ!!』



オレはあまりにもびっくりしすぎて、ベッドから慌てて飛び起きる。

ドーベルマンから距離を置こうとすると、奴はあろうことかオレの身体の上に乗ってきたんだ。


『なんだよ!!』

オレの上に圧し掛かるドーベルマンを睨(にら)むと、奴は鼻息を荒くしていた。

『ずっと待ってたってのに、全然顔出さないから、こっちから来た』

気味悪く笑うドーベルマン。


んなっ!!

『お前、すげぇいい匂いするな』

ドーベルマンによって仰向けにされているオレの腹に、奴はあろうことか鼻をこすり付けてきた。


『なぁ、お前おかしいぞ? オレは男でお前も男だろう? こんなこと、間違ってる!!』

恐怖を必死に隠して説得を試みる。

だけど、ドーベルマンはその説得さえも応じない。


『男とかそんなの関係ないね。俺はたしかにお前に欲情してるんだ』





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