迷える小狐に愛の手を。
第九話





chapter:運命の出会い。はじめてのお買い物







「まあまあ、可愛らしいですね」

年の頃なら四十代くらいの女の人は、黄色と黒のチェック柄をした七分袖シャツとベージュのチノパンとかいうズボンを着たオレの身体を食い入るように眺め、深くうなずいた。


――オレがいるココは、高い建物の中。

幸の家から約三十分。
『車』っていう変わった形をした乗り物でココまで来た。

車って面白いんだぜ?

いきなり大きい音を、『ブオオン』って出したかと思ったら、あっという間に目的地に着いたんだ。

車と父さんの足、競争したら、いったいどっちが早いんだろう。

ちょっと知りたい内容だ。


でもって車から降りたオレの目の前には、もう少しで天国まで行けるんじゃないかっていうくらい高い建物がたくさん立っていた。

中に入ると、扉は自動で開くわ、誰もまわりにいないのに、『いらっしゃいませ』とか言うんだぜ?


すげぇ……。

人間って、すげぇなっ!!


見るものぜんぶが面白くて、キョロキョロあたりを見回すオレの手をひいて、幸は、五階にある服売り場というところまで来た。


「本当に可愛らしいわ」

また言った……。


『かわいい』

人型になってもこう言われてしまうのか……。

落ち込み気味のオレに、幸も素知らぬ顔でうなずいている。


「いつかはぜってぇ、幸の背を追い越してやるっ!!」


幸に沸々(ふつふつ)とライバル心をむき出しにするオレ。


幸は最後のトドメめを刺しに来る。


「古都はこのままの方がかわいいのに?」





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