パックリと口を開け、放心状態の俺と花音。 そんな俺たちの前に、母さんが突き出したものは父方の、祖父の手紙だった。 『篠崎家の長女、花音が16になった後、葉桜家嫡男である月夜くんと許婚の仲となることとする』 ――たったそれだけの簡単な文は達筆な文字で書かれていた。 「ちょっと待って!! あたしそんなの訊いてないっ!!」 大声で父さんと母さんに抗議したのはもちろん花音だ。 花音は顔を真っ赤にして怒っている。 普段、陶器のような白い肌をしているだけに、どれだけ憤慨(ふんがい)しているのかがよくわかる。 「あらあら、言い忘れてたみたいね。ごめんなさい。まあでもこうなっているのは仕方のないことだし、お嫁さんにいってね花音」 『言い忘れてた』って、母さん。 そんな大事なことを、『ごめん忘れてた』で済ますのかよ。