chapter:花束 (二) ぐるぐるぐるる……。 腹の虫が鳴る。 妖狐真尋(まひろ)が次に目が覚めたのは、すっかり太陽が昇りきった午後だった。 「腹、減ったな〜」 何か食べ物でも落ちてないかと、自慢の鼻を利かせて雑草ばかりが生い茂った地面を探る。けれども変化が苦手な真尋は人気ないこの場所を見つけたのだ。当然食べ物なぞ落ちているわけもない。 それでも何か落ちていないかと探っていると、毛を撫でる柔らかな風と共に、ほんの少し、甘い香りが漂った。真尋が視線を向けると、そこには真っ白な可憐な花が一面に咲いていた。 四つから五つある大きめの花弁はハートの形をしている。一見すると桜の花のようにも見えるが、今は春ではない。それに桜は木の枝枝から咲くのではなかっただろうか。 では、この花はいったい何なのか。 四季の花々に興味を抱かなかった真尋が考えてもわかるはずもない。 「…………」 名も知らぬ可憐な花をじっと見つめていると、昨夜、真尋が押し込んだ先の屋敷に住む人間のことを思い出した。 あの人間は不思議だった。真尋が刃物を突きつけたのに、怯えたり攻撃してくることはなく、それどころか友好的に食い物をくれた。 それに、こちらが正体を明かしていないにもかかわらず、あの男は自分の正体をあっさり見抜いてしまったのだ。 彼の男はいったい何者なのであろうか。 そういえば、昨夜はろくに礼も言っていなかった。 祖父は、どのような相手であっても礼節はわきまえろと、毎日口癖のように言っていたものだ。 名も知らぬ花ではあるが、これを持って行けば喜んでくれるだろうか。 あの男、たしかまたおいでとそう言っていた……。 腹も減ったことだし、今夜も彼の男の屋敷へ出向いても良いだろう。 真尋は暗くなるのを待ってから、昨日逢った件の人間の屋敷へと向かうことにした。 |