chapter:プロローグ 答えは否、だ。朔夜は木乃葉にすがり、何がどうあっても救いを求めるだろう。 だから朔夜は木乃葉に別れを告げ、この世を去った。 そして、二十七年を過ぎた現在――。朔夜は、弓月としてこの世を去った僅(わず)か二年後に転生を為した。 自分はやはり、陰陽師の家柄に生まれている。 過去も現在も、自分の立場は変わらない。 霊力もやはり、依然として強力だった。 ただ違うのは、白家には自分以外の子はおらず、ひとりきりだということだ。 弓月の父は、白家を息子の弓月に後を任せ、残った余生を楽しんでいる。 夫婦そろって海外を飛び回り、のんびり暮らしていた。 当時は厳格な父親だったのに、今ではすっかり羽目を外している。 薄い唇が弧を描く。 物思いにふけっていたその時だった。 微弱ではあるが、次元の歪(ひず)みのようなものが生じたのを感じ取った。 それと、ほんの微かだが、白檀(びゃくだん)の香り……。 視線を月から庭に戻せば、低木で小さな白色の花を宿した馬酔木(あせび)が植えられており、冬を彩っている。その間から、黒い人影が見えた。 そうかと思えば、『それ』はすぐ、弓月の背後に移動した。 首筋に突きつけているのは刃物だろうか。月の光を浴び、妖しく光っている。 恐ろしく俊敏な生き物は、どうやら人間ではなさそうだ。 |