chapter:温度 「さむい、さむい、さむいさむいっ!!」 三月なのに寒さが残る今、大学の受験も一段落し、桃色の、小さな花を咲かせている梅の木が目立つ、人気がない公園の中、俺はいた。 今日は大好きな彼と久しぶりのデートの待ち合わせだ。 約束の時刻よりも五分も遅れてきた彼は、時間に遅れたことを気にして走ってきたのだと思ったら、俺の背中から腕を回し、抱きついてきた。 後ろから抱きついてきた彼の最初のひと言は、「待たせてごめん」じゃなくて……。 「ああ、あったかい」 だった。 俺のこと、湯たんぽ代わりくらいにしか思ってないのか? 「おい!」 「ん?」 「ん? じゃねぇ! 俺はお前の暖房器具じゃないんだぞ?」 「そりゃそうだろう。俺の恋人だ」 ケロッとした顔で当然のように言う彼。 だったら……なんで、久しぶりのデートなのに……こんな、暖房器具扱いをされなきゃなんねぇの? こいつはいつもそうだ。俺のことをなんと思ってるんだよ!! 今だって、腕に包まれて、ドキドキしてるのは俺だけで……だけど、こいつはそうじゃなくって……。 そう思ったら、怒りがふつふつとわき上がってくる。 「マイペースなのもいい加減にしっ、んうぅっ!?」 顔を上げ、怒鳴る俺を中断させたのは、彼の、薄い唇だった。 「怒った顔も可愛いけど、そうやって赤くした顔も可愛いっ!!」 リップ音と共に唇が離れ、彼は静かにそう言った。 「っつ!!」 俺は――ああ、ダメだ。頭の中が真っ白で、怒りも忘れてしまった。 「あ〜、あったけ〜〜〜〜、裕真(ゆうま)かわいいっ!!」 スリスリ、スリスリ。 うなじのところに頬ずりされて、俺は為す術なく、熱くなる顔を俯けた。 ……一生、彼には敵わない。 認めるのはムカつくから、俺は彼の腕の中で、そう思った。 **END** |