chapter:産声を上げるは……。 (一) "光は闇を生み、闇は光を育む。それらは決して相容れぬものなり。されど闇が光を飲み込まんとする時、ひとつの王が統(す)べてを束ねん。その王、古(いにしえ)の剣を持つであろう。" 天界(ゴッディア)。澄んだ青空が広がり、水の精霊ウンディーネの祈りによって大地を潤す雨粒が、太陽神アポロンの生み出せし力強い太陽の陽の光によって乱反射し、ダイヤモンドのように輝く。その水は悪戯好きな精霊シルフの風で運びばれる。やがて風に乗った輝く水滴は大きな三つに分かれた川となり、涸れることのない湖へと行き着く。 植物や花々は美しく咲き乱れるそこは生きとし生ける者すべての理想郷。 その天界では今まさに新たな生命を与えられた産声が生まれようとしていた。英雄王ギデオンとの愛の結晶が女神アデルの腹に宿ったのだ。そして今日が出産の日だった。 天界の誰しもが、二人の間に生まれてくる子供は女の子ならばアデルのように美しくしなやかで赤褐色の艶やかな髪を持ち、男の子ならばギデオンのように強くたくましい、凛々しい赤子であると疑わなかった。 天使たちは美しい歌声で――妖精たちは華麗なダンスを披露し、神々は新しい命の誕生を今か今かと待ち望む。そして天界は祝福の光に包まれ、喜びに満ち溢れる――筈、だった。 しかし、理想郷とも言われた天界に響き渡ったのは祝福でも喜びでもない。天界の空は今まで存在しなかったアポロンの太陽を打ち消す黒雲が覆いはじめる。穏やかだった天候は見る影もなく嵐に見舞われた。大地が震え、荒れ狂う。 英雄王ギデオンと女神アデルの子は、蛇のような黄色い眼に口から飛び出る長い真っ赤な舌。それから青白い蒼白な肌を持っていた。魔力は神々しい光を帯びたものではなく、邪念だ。 「なぜこのようなことに……」 自分は真っ当に生きてきたつもりだ。平和を愛し、緑や自然の摂理には逆らった覚えはない。ではなぜ、このような惨事になってしまったのか。英雄王ギデオンは頭を抱えた。 "たとえ我が死したとしても命を奪いし罪は消えず、永遠に報いを受けるだろう。" 雷鳴轟くその中で、醜い嗄れたひとつの声が響いた。 それは今から数日前のことだった。ギデオンは巨大な蛇の姿をした邪神デルネオラと刃を交え、彼女の命を奪ったことを思い出した。 デルネオラは邪心の塊で、人びとを闇へと誘い、惑わした悪魔だ。人びとの泣き叫ぶ声に誘われ、命を賭して戦ったのだ。その時、彼女の呪いを受けてしまった。 「わたくしは禁忌の子を産み落としてしまった」 この惨劇に心を痛めたのは他でもない、忌み子の親になった二人だ。女神アデルは悲しみに暮れ、英雄王ギデオンは邪神の呪いを受けてしまった不用心な己を責めた。 だが、天界を統べる天界神ウラノスはアデルとギデオンを責めることなく、禁忌の子を天界から遠く離れた荒れ果てた塔に閉じ込めた。そこには何人たりとも入ることは許されず、鋭い棘を持つ茨が侵入者を拒む。 けれどもある種族だけにはその茨の効果はなかった。 その種族の名は、悪魔。 彼らは闇を好み、天界と対になる存在。 彼らは彼らの世界、暗黒界(ダーケティア)以外のすべてさえも手中に治めんと策略している邪な者だった。 悪魔は天界より生まれし禁忌の子を奪い去る。 |