★†★ 出会って間もない万里とは何の面識もないのに、ルーファスはとても優しかった。 そして面倒見が良い。だからだろう、万里はルーファスに自分には両親がいないことや施設での暮らしなんかを話した。 ルーファスは万里を優しく包み、大きな骨張った手で頭を撫でてくれる。 おかげで万里は孤独ではないと感じるし、少しも寂しくはなかった。 そして最近、万里はもっとルーファスの傍にいたいと思うようになっている。もっと親しくなりたいと思っているのだ。 その理由はいったい何だろうか。 もしかすると、ルーファスのことを父親のように思っているのかもしれない。なにせ両親は万里が幼い頃に家を出た。いくら施設のスタッフたちに優しくされたとしても、甘えることはできない。愛情に飢えているとしてもおかしくはない。 「……ルーファス」 傍らで眠っている彼の名を呼ぶただそれだけで、胸が高鳴る。 彼から与えられる愛情を欲しているのだとしても、この鼓動が指し示す意味がわからない。 それだけではない。胸が焼け付くように熱を持つ。 しかも、これはルーファスだけに反応するのだ。 病気なのだろうか。 だが、このほかには別段変わったところはない。 夜も更ける頃はこうして当たり前のようにルーファスと同じ寝室で抱き締められて眠る。そんな日々が続いていた。 夜の闇を思わせる漆黒の目は、長い睫毛のカーテンによって閉ざされている。 彼は相変わらずとても綺麗だった。 綺麗といっても女性のような可憐なという類ではなく、男性らしい力強さと美貌を持っていた。 それにしても、彼はいったい何者なのだろう。仲間たちは皆、漆黒の翼を持つ、まるで童話やお伽噺に登場する悪魔のようだ。しかし彼らは万里と同じものを食べる。見た目こそ恐いとは思うが、性格はとても温厚で獰猛な存在ではない。 特にルーファスは不思議だ。彼は自分の事を救世主だと言うが、彼こそがそうではないかと思う。だって、万里が初めてこの世界へやって来た時、あの傲慢王子から逃れるため助けを呼べば、彼が現れた。 万里にとって、ルーファスこそがヒーローなのだ。 今だってそうだ。自分を包む腕はたくましく、守られているという安心感がある。 万里はそっと手を伸ばし、目の前にある彼の薄い唇を人差し指でなぞってみる。触れた指に彼の息が触れる。 次に、彼に触れたその指で、自分の唇もなぞってみた。 「……っふ」 なぜだろうか、みぞおちが熱い。 おまけにおかしな声も出てしまった。 恥ずかしい。けれどもっと近づきたい。 腰に回った彼の腕を意識してしまう。 もっと強く抱き締めてくれてもいいのに。と、万里はなぜかそう思った。 ★†魔王様は救世主様と同居中? ・完†★―